ハツコイ
「あの時の俺は卒業が迫ってて、柚と大学が別々になることがわかっていたから、焦りがあった。だから、柚を大切にしたい…離れてても大丈夫だって思えるようにどうしたらいいか、そんなことばかり考えていて…ごめん、上の空だったんだと思う。」
そんな琉偉に対して、芽衣ちゃんは言った。
「この会社に就職して社内で琉偉くんを見かけて、また別の日に柚奈ちゃんを見つけた。この二人はやっぱり続いてるんだって思ったら、ある時琉偉くんが別の女と帰るのを見かけて。」
きっとそれは、秘書課の三橋麗華さんのことだろうけど…
そっか、芽衣ちゃんはいち早く、私と琉偉を見つけてくれてたんだ。
「それであたし…いてもたってもいられなくて琉偉くんたちの後をつけたら、その女と一緒にこのマンションに入っていくのが見えた。その時は別れちゃったんだなって思ったけど、同窓会で海に行った時、琉偉くんと柚奈ちゃんが付き合ってるって知って、琉偉くんがそんなホイホイ彼女作るような、いい加減な人だなんて思ってなくて悔しくて。」
しばらくの沈黙が続く。
それを破ったのは…
私。
「違うの、芽衣ちゃん。芽衣ちゃんが好きになった人は決していい加減な人じゃないよ。琉偉と一緒にいた女性は、私もはじめは勘違いしたんだけど、付き合ってる人じゃなかったの。事情があって、二人は付き合ってるフリをしていたの。」
「フリ…?」
首を傾げる芽衣ちゃんに、続けてあーみんも言ってくれた。
「そう。でもそんな時柚奈がこのアパートに来て、二人は再会した。琉偉はすぐにその女性に断ったのよ。これ以上付き合ってるフリはできないってね。」
「…そっか。そうだったんだ………。」
誰が悪いとか、そんなんじゃない。
ただ、いろんな人の想いが複雑に絡まってしまっただけ。
芽衣ちゃんはそっと目尻に浮かべた涙を拭うと、私を見て言った。
「柚奈ちゃんは…幸せ?」
それに対して、私は自信を持って答えた。
「うん、すごく幸せ!」