ハツコイ
「柚奈〜、そろそろ返事してあげなよー。」
安原さんと私の様子を覗き見していたのか、同期の真希が耳打ちしてきた。
「だ、だって…」
こんな私に、あんな仕事も出来てかっこ良くて性格もいい人なんて、勿体ないよ。
そう。
私は、安原さんについ先日、告白されたのだ。
“倉科のこと、ずっと前から好きだったんだ。”
そう言われてびっくりしてしまって、その時は何も言えなかった。
でも安原さんは、ゆっくり考えてみてって言ってくれて。
その言葉に甘えながら今日まで返事をせずに来てしまった。
「安原さんって、顔良し・性格良し、オマケに将来有望な課長クラス。…一体何を迷うことがあるわけ?」
「…って言われても……」
全くその通り。
私は、一体何を迷っているのだろう。
「まあでも、安原さんレベルのオトコが、社内にもう一人いるよね…って、こりゃ聞いてないか。」
うなだれる私に、真希は小さくため息をつき、これ以上は何も言わなかった。
…明日。
明日は必ず、返事をしよう。
安原さんのこと、好きなのかはまだよくわからないけど…
“彼”のことを、ようやく忘れられる時が来た気がするから。