初恋の行き先
「啓介。今日帰ってくるんだろ」
「うん」
「仲直りしろよ。喧嘩するたびに呼び出される俺の身にもなってくれよ」
「うん、ごめん」

妙に素直な葵にいつものリズムが崩される。

「ハ、ハンバーグでも作ってやれよ。アイツ舌が子どもだから、そういう料理が好きだろ?」
「えー?航也いつの話してるの。今啓介が好きなのはね、筑前煮だよ」

好みが変わったでしょ。
啓介も成長したんだよ。

そう言いながら嬉しそうに笑う葵の声を聞いていると、胸の奥が締め付けられるような気がする。
あー、本当に馬鹿だな、俺。


「じゃあ、作ってやれよ筑前煮」

今度京都土産買って家に行くから、それまでには必ず仲直りしとけよ。
そう言って電話を切る。

今でも葵のことが好きになった瞬間のことが鮮明に思い出される。
そして、葵に彼氏を紹介された瞬間も。
この苦い記憶も含めた記憶が俺の永遠に叶うことがない初恋だ。

ああ俺はいつまで、旦那持ちの女を引きずってるんだよ。
しかも、わがままで迷惑ばっかりかける女を。

「俺も観光して帰ろうかな」

この初恋はそう簡単には消えない、けど、いい思い出にはもう少し、あと少しで消化できそうだ。

土産何がいいかな。
そんなことを考えながら、足取り軽く、京都の街へ繰り出した。
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