いちばん近くて遠い人
1.女たらしと南の魔女
 この世は不合理と不平等で出来上がっている。

「最低!!!!!」

 乾いた音が響いて周りがどよめいた。
 街中の往来で平手打ちされた男性は「イテテ……」と頬を押さえた。

 平手打ちした当の女性は怒り任せに走り去っていく。
 それを男性は追おうとはしなかった。

 スラリとしたスタイルのいい長身の男性は整った顔立ちを歪めて、好奇の眼差しに晒されたまま立ち尽くしている。

 自業自得だ。
 ちょっと見た目がいいからって何かやらかしたんだろう。

 同情する価値もない。

 けれど…………。

「腫れると思います。
 冷やした方がいいですよ。」

 ハンカチを差し出すと一瞬驚いた男性が頬を緩めて「ありがとう」と微笑んだ。











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