いちばん近くて遠い人
「ミチ〜。お手柄だぞ。
 久しぶりに南の笑顔を見たわ。」

「なぉん」と返事をした猫ちゃんが………ミチ?

「加賀さん。ミチって………。」

「あぁ。こいつの名前。」

 笑い出した私に「なんだよ。どうしたんだ」と少し不機嫌そうなそれでいて安堵しているような加賀さんが余計におかしかった。

 部屋に入るとソファを勧められて腰を下ろす。
 そのすぐ隣に加賀さんも腰を下ろした。

「機嫌は治ったのかな?お姫様。」

 魔女と言ってみたり……お姫様だなんて。
 茶化す加賀さんに文句を言った。

「紛らわしい名前、つけないでください。」

「何が。」

「ミチって、美智さんかと思うじゃないですか。」

 なんのことだか……という顔をする加賀さんに前に寝ぼけて抱き寄せた時に「ミチ…」と寝言を言ったことを伝えた。

「ダサッ。
 他の女の名前じゃなくて猫って……。」

 だからそうじゃなくて……。

「私は美智さんかと……。」

「………ミッチー?」

 やっと合点がいった顔をした加賀さんに今日までのモヤモヤをぶつける。

「そうですよ!普通、そう思います!」

「悪い。そうか。悪かった。」

 笑いながら抱き寄せる加賀さんが憎たらしい。
 本当に悩んだのに!

「美智さんのこと美智って呼ばないのは、もしかして………。」

「あぁ。
 ミチと言えば俺にとっては猫だから。
 気にしなきゃいいんだが………なぁ?」

 まぁ、分からなくもないけれど。

「それ美智さん知ってますか?
 野々村さん時代が長かったって嘆いてましたよ?」

「それは悪いことしたな。
 ミッチーにも。南にも。」

「私は……。」

「ミッチーまでも関係があったのかって悩んでたんだろ。」

 心、読まれてる……。

 そりゃ加賀さんならって思っちゃうよ。
 他の素行が素行だけに。







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