いちばん近くて遠い人
29.何年か振りの
 加賀さんは白状するように続けた。

「俺もここ数日はへこんでた。」

「何をです?」

「南が避けるから、キスが下手だったかとか、口が臭かったかとか。」

 思ってもみないことを言われて吹き出した。

「そんなこと。」

「素っ気なくするなよ。」

 ふてくされたように言う加賀さんに文句を言ってやりたい。

 加賀さんは何度も素っ気なくしたくせに。

 だから嫌味たっぷりに言ってやった。

「そんなのたくさんの寝させてくれない女の人に聞けばいいじゃないですか。」

「それを掘り返すな。」

「だって。」

「もうそんな奴いねぇよ。」

「嘘……。」

 私を見る加賀さんの瞳に嘘はないように見える。
 けれど……あの加賀さんだよ?

「だってあの時の女の人……。」

 私を追い返そうとして目の前で電話をして見せた。
 あの女の人は??

 私の指摘に居心地が悪そうな顔をした加賀さんに、やっぱりいきなりそんなわけ………と思っていると、私が思っているのとは違った結末を教えてくれた。

「あの後、恋人との気持ちを深める為に使ったって言ったらスゲーキレられた。」

 え……そういうつもりでかけたんじゃないよね?
 だってあの時は私が止めなかったら本気でその女の人のところへ行くところだった。

 結果的には仲が深まったのかもしれないけど………。

 もしかして………。

「わざと怒らせるようなこと言ってます?」

「は?俺、怒られて喜ぶような奴に見える?」

 そうじゃなくてさ。

 わざと相手を怒らせるようなことを言って女の人が自分を責められるようにしているみたいに感じた。

 それが加賀さんのせめてもの相手の人への誠意。
 本人は気づいていないかもしれないけど。

 それに……私の気持ちに応えてくれるっていうのも嘘偽りのない誠意を持って向き合ってくれていたんだ。

 驚きと段々と湧き上がる感激で目の奥が熱くなってくる。







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