いちばん近くて遠い人
 加賀さんはキス以上のことはしない。
 あんなことがあって、大切に……してくれてるのかな。

 あの加賀さんがって思うとおかしくて笑えてしまう。

「何を笑ってるんだ。」

 シャワーを浴びて来た加賀さんはラフにワイシャツだけ着ていた。
 ボタンも下の方を数個留めただけでそんな姿でさえ色気を放っている。

 ジロジロ見てしまっていたようで、袖口のボタンに手をかけていた加賀さんと目が合った。
 
「ん?留めてくれる?」

「……ご冗談を。」

「フッ。本気。」

 後ろから抱きしめられて腕を出された。
 ボタンを留めなきゃ許してくれないだろうと観念して照れながらもボタンを留める。

「サンキュ。」

 お礼とともに加賀さんは頬にキスをした。
 朝からの甘い雰囲気が恥ずかしい。

 ボタンをつけた私の指先にもキスをした加賀さんがその指先を甘噛みした。
 その仕草が色っぽくて見ていられない。

「その…何かを咥えてる姿が色っぽくて……。」

 つい口を出た言葉。

「タバコ吸ってるところ少しだけ見てみたかったです。」

「………俺にもう一度吸えと?」

「ち、違います。タバコ嫌いですよ?
 ただその姿は似合ってただろうなって。
 ごめんなさい。ただのヤキモチです。
 私の知らない姿を……知ってる人がいると思うと。」

 特に加賀さんを苦しめているタバコなんて嫌いだ。
 それなのに……。

「あんまり可愛いこと言わないでくれる?」

 頭をかいた加賀さんがベッドから降りてどこかへ行ってしまった。







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