いちばん近くて遠い人
30.兄貴の親友
 武蔵さんに誘われて武蔵さんのご自宅にお邪魔していた。

 奥様は優しそうな温和な方だった。
 奥様を見てから武蔵さんを見ると武蔵さんは正真正銘の腹黒い人に見えなくもない。

 奥様はお茶を出してくれると席を外した。

「嫁は雅也のことはよく知ってるし、今日話すことも事情があることは分かってくれている。
 だから気にしないで。」

 そう言われて、ありがたく思いつつも体を固くした。

 武蔵さんが自宅に招いたのは加賀さんのことを話したいからだと言われたのだ。

 その上で雅也のところに行くか考えてと。

 話を聞けばクズ男に成り下がった理由も少しは分かるかもしれないよ。とも言われた。
 だからって今までのことを許してやることもない。とも付け加えて。

 加賀さんがあんなにも女の人に最低だった理由………。
 ふしだらな関係に溺れて現実から目を背けたくなるような過去があったのだろうと思うと色々な意味で聞くのが怖くて緊張が高まった。

「ごめんね。本人から聞きたいよな。
 でも雅也が話すと現実が捻じ曲げられて伝わりそうだからさ。
 あいつの兄貴の親友として南ちゃんに話しておきたいんだ。」

「兄貴の親友……。」

 その言葉に引っかかりを覚えて復唱した。

「そ、雅也は俺の後輩。」

「後輩!?」

 驚いて声が裏返ってしまった。

 だって上司が加賀さんなわけで……。

 私の表情を見て武蔵さんは笑う。

「後輩が上司なの?って慰めはいらないから。
 そこも含めて話すよ。」

「はい。お願い……します。」








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