いちばん近くて遠い人
「恭子と関わったせいで雅也の歯車は狂い始めた。
 恭子はかなりタチが悪くて裏で色んな奴に手を出した。
 かなり貢がせてもいたらしい。
 雅也の親友にも、それから尊敬していた兄貴の優也まで手を出していた。」

「そんな………。
 仲のいい兄弟に……ひどい。」

「雅也は貢いだりするような奴じゃ無かったが、真面目な優也はずいぶんと入れ込んでいたみたいだ。
 それで………色んな事が起こってな。
 雅也は親友との信頼を失い、家族の絆も失った。」

 そんなことがあったなんて………。
 もっと単純に恭子さんに捨てられたから女性が信じれなくなって……みたいなのを想像していた自分が恥ずかしくなる。

 そして武蔵さんは決定的な一言を口にした。

「きっと雅也は自分が兄貴を殺したって思ってる。」

「殺したって………。」

 言葉の重さに絶句した。

「優也は真面目だから精神的に参ってしまって。
 自殺まで考えていたんだ。
 その優也の自殺を止めたのは雅也だ。」

「じゃ殺してなんか………。」

 頷いた武蔵さんが非情な現実を口にした。

「恭子との話し合いに向かうという優也を止められなかったことを悔やんでいる。
 止めれなかった俺が殺したようなものだってな。」

「それってどういう……。」

「自殺まで考えていた優也はずいぶん衰弱していたみたいでね。
 運転を誤って………。」

 そんな………。

 武蔵さんも辛そうに胸の内を吐露した。

「俺だって……どんなに悔やんだか。
 優也も雅也も両方を止められるのは俺だけだった。
 恋愛なんて人の自由だし、まさか優也がそこまでのめり込んでいるとは思わなくて。
 馬鹿な女に引っかかるなって、一言もっと早く言っていれば………。」

 嗚咽を漏らす武蔵さんに私は何も声をかけてあげられなかった。







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