いちばん近くて遠い人
31.託された伝言
 武蔵さんから話を聞いた数日後に加賀さんのマンションに来ていた。
 きっと加賀さんも話してくれるつもりなのだと思う。

 だから武蔵さんから一部始終を聞いたことを加賀さんに打ち明けた。
 黙っているのは違うと思ったから。

「あぁ。知ってる。
 武蔵から俺も聞いた。南に話したこと。
 お節介だよな。」

「心配してくれてありがたかったです。」

 私の頭を撫でる加賀さんだって私より分かってる。
 武蔵さんの優しさを。

 でも………。

「同じ話だとしても加賀さんの口からも聞きたいです。」

「俺も同じことを思ってた。
 俺も俺の口から話したい。」

 ソファに並んで座った状態で加賀さんは話し始めた。
 隣にいるのに、どこか遠くにいるようなそんな気がした。

「あの女が相当だったって聞いたよな?
 で、俺の順位はずいぶん下だったようだ。」

 あの加賀さんが嘲笑して話す内容は武蔵さんに聞いたけれど、違う側面から見ている話。

「俺がつけていた兄さんからのお下がりの時計を見て金を持ってそうだと食いついたけれど本人はまだ駆け出しの営業。
 金なんて持っていない。」

 恭子さんは遊びというよりも貢がせるために人を選んでいたんだ。
 それが明確になって、ますます恭子さんへ嫌悪感や恐怖を感じた。

「別にいいんだそれは。
 俺もそれなりに遊んでた。
 女との遊びもタバコも悪いことは全部あいつから教わったのも確かだ。
 けど、そんなことより……許せないのは真面目な兄にまで手を出して、それで………。」

 そこまで話すと息をついた加賀さんがまた別の視点の話を始めた。









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