いちばん近くて遠い人
「マンション……誰も入れたことないって本当ですか?」

「あぁ。あいつ、自分のテリトリーに人を入れるの嫌いだから。
 家族すら入ったことないらしいよ。
 慕ってた優也ですら入れたことあるかなぁくらい。」

「だって私が美智さん家に泊めてもらうかどうかの時………。」

 武蔵さんは笑う。

「あぁ。だから天然なんだろ?
 誰にもやったことないプレゼントを渡してみたり、ヤキモチ妬いてみたり。」

 武蔵さんまで同じことを言う。
 私はそんなことまだまだ実感できなくて……なのに。

 武蔵さんはいつもみたいに加賀さんをからかうように言った。

「それで自分の気持ちに気づいてなかったんだからどれだけ自分の気持ちに鈍感なんだって話。
 あの時に南ちゃんが雅也のマンションに泊まってたらどうなったかな。
 今は見てみたいよ。」

 悪戯っぽく言う武蔵さんに困ったように言った。

「さすがに……あの時はちょっと。」

「ハハッ。そうだな。
 ………安心しなよ。
 元カノが忘れられなかったんじゃない。
 雅也が囚われていたのは優也への後悔だから。」

「はい。加賀さんから話を聞いて、私もなんとなくそう思いました。」

 つらい過去を話してくれた。
 それだけで十分なはずなのに。

 私は武蔵さんが言うほど加賀さんの私への想いを実感できずにいた。

「ただあんな……女性にだらしない感じだったのに、天然でって言われてもちょっと。」

 大笑いした武蔵さんが「天然なのは南ちゃんの前で雅也が素でいるからだろ」と言った。

「だいたい他の女とはやるだけやったらとっとと帰ってたみたいだし………。って失言。」

 口を押さえた武蔵さんに加賀さんも武蔵さんもそっくりなんだからと苦笑した。

「優也のことがあって自暴自棄だっただけで今は南ちゃんだけだよ。」

 武蔵さんのフォローに曖昧に微笑んだ。

 つらいことがあったせいとはいえ、加賀さんはろくでなしで最低なことをしていた。

 そういう過去は消せない。

 本人もその十字架みたいなのを背負っている。
 私もその十字架を半分背負うことが出来たらいいのに。






< 121 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop