いちばん近くて遠い人
33.大事なモノ
 僕は加賀さんの海外赴任の話を耳に挟んで加賀さんに訴えていた。

「南ちゃん置いていくんですか?
 そんな呑気なことして……僕が奪いますからね!
 いいんですね!?」

 僕がいくら食ってかかってみても、いつもの涼しい顔で加賀さんは言う。

「あぁ。正々堂々、奪えばいいさ。」

 加賀さんはズルイ。
 全然正々堂々じゃない。

 加賀さんがいなかったら弱ってる南ちゃんにつけ込むことになるんだから。



 月日は加賀さんが日本からいなくなって何ヶ月が経った。

「南ちゃんね。
 毎月、加賀さんがいなくなった日と同じ日にちに空を見上げてるの。」

 同じ日にち……。今日じゃないか!

 美智さんから聞いた言葉に僕は南ちゃんを探す。

 事務処理に集中するために会議室にこもっていた南ちゃんを見つけて強い口調で言った。

「追いかけろよ!」

 それが何を意味するのか、一瞬で理解した南ちゃんが見開いた目を泳がせて俯かせた。

「でも……。」

「加賀さんが、南ちゃんの費用全部持つくらいの男を見せない奴だったら俺がぶん殴ってやる!」

「………ありがとう。隼人さん。」

 何かを決意したような南ちゃんにホッと息をついて会議室を出た。

 何をやってんだか。僕は。

 会議室の外では心配して追ってきてくれたみたいな美智さんが待っていた。

「隼人。今日は飲みに付き合うわよ。」

「嫌だよ。美智さん絡み酒なんだもん。」

「武蔵さんも来るって。」

 2人の優しさに力なく笑った。








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