いちばん近くて遠い人
「ひどい言われようだな。」

 式に出席してくれる方々に挨拶に行っていた加賀さんが顔を出した。

 仕返しとばかりに加賀さんは口の端を上げて隼人さんに言った。

「そんなこと言う割には俺を待ってるらしいな。」

 本来なら抜けた加賀さんの代わりに新しい人を入れるところをそれをしなかった。
 上司不在なんて前代未聞だ。

 けれど、みんなの気持ちは同じだった。

「だって1年で戻って来るのが分かってて他の人の下で働きたくないです。」

 隼人さんが不服そうに言うと加賀さんは微笑んだ。

「そっか。サンキュ。」

 加賀さんは自分が思ってるよりずっと必要とされてるんだから。

 武蔵さんは付け加えるように言った。

「しかし風当たりは強い。
 ワガママを通して仕事をやらないなんて。と、な。」

 加賀さんの抜けた穴は大きい。

 だから新しい上司の代わりに仕事を減らしてもらった。
 重たい案件を数件と、新規のお客様の方を他部署にもらってもらえばなんとか私達だけでもやって来れた。

 そして、仕事は軌道に乗ったから大丈夫とニューヨークの加賀さんの側にいることをみんなの方が勧めてくれた。

 加賀さんはみんなを1人1人見てから言った。

「戻ったら独立ってのもありかと思ってる。」

「独立……。見捨てるんですか!」

 慌てる隼人さんに美智さんが笑う。

「何を言ってるの。誘われてるの。
 そうですよね?」

「あぁ。」








< 127 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop