いちばん近くて遠い人
 式の時間が近づいて3人は控室を出て行って加賀さんと2人きりになった。

 加賀さんは夢見がちに話してくれた。

「兄さんといつか独立しようって話してたんだ。
 兄さんと武蔵と3人で。」

「そうだったんですね。」

「兄さんは真面目だったし銀行勤めだったから経理で、武蔵は社長ってキャラじゃないから営業でいいって。俺が営業兼社長で。」

 こんな風に穏やかにお兄さんの話をしてくれることが私には一番嬉しいことだった。

「兄さんはいないけど。」

 伸ばされた手は頬に触れ、その手を包むように私も手を重ねた。

「俺には南がいる。」

 加賀さんはそっと唇を寄せた。

「最初に考えていたよりも大所帯になったなぁ。」

 嬉しそうにそう言った加賀さんに微笑みを向けた。









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