いちばん近くて遠い人

「お疲れ。
　俺の悪口言ってたんじゃないだろうな。」

　楽しそうに笑う加賀さんの笑顔が眩しい。

「出たよ。寂しん坊、雅也。」

　武蔵さんが昔からの知り合いらしい絡みをする。

「そんなこと言うのお前だけだ。」

　緩んでいたネクタイを取り、壁に用意されていたハンガーに上着と共に掛けながら、加賀さんも仲良さそうに返している。

「もちろん悪口いっぱい吹き込んどきましたよ。
　ね。南さん。」

　美智さんに言われ、慌てて頷いた。

「え、えぇ。はい。」

　みんながみんな楽しそうで、この場にいるのが嘘みたいだ。
　美智さんは私の腕に腕を絡ませて言った。

「私はただただ女の子が増えたのが嬉しいのです！」

「ミッチーはもう出来上がってるのか。」

　加賀さんは苦笑して突っ込んだ。

　加賀さんが来ただけで余計に華やいだ気がする。
　やっぱりすごい人だ。

　こんな職場……なんだか嘘みたい。

「何、ボサッとしてる。主役。」

　頭をかき回されて、え？何が？と混乱しているとそのまま私の隣に座った加賀さんが楽しそうに笑った。

「お近づきの印に、いっちょ魔術の１つくらい見せてくれるだろ？」

　魔術って……この人、本当しつこい！

「南さん固まってるからー！
　私は本当、南ちゃーん！嬉しいよ！！」

「ハハッ。ミッチーは絡み酒だから南は覚悟しとけよ。」

　右に美智さん、左には加賀さん。
　会社と同じ席にみんな自然に座っていた。

「美智さんだけじゃないですよ。
　僕らも南さんが異動させられなくて喜んでるんですから。」

　隼人さんが加賀さんのせいでという意味を含んだ言い方で半分は今までの抗議をしている。

「人聞きが悪いな〜。」

　誤魔化すように笑った加賀さんが再び口を開いて、それは想像していたのとは違った言葉だった。

「ま、これくらい美人の方が俺の横にいてもひけを取らないからな。」

　あぁ。そっち。
　そっちですよね。

　変な期待をした自分が恥ずかしかった。

　仕事が出来そうとか、信頼出来そうなとか、そんなことを思ってもらえることは何も出来ていないのだから。