いちばん近くて遠い人
7.クズ男は突然に
宴もたけなわでお開きとなった。
お店の外では同じ帰り道を集ってみんなで話す。
通りすがるだけだった光景の輪に自分もいることがやっぱり慣れない。
「ミッチーは俺が送るよ。」
武蔵さんの肩にもたれかかった美智さんは楽しそうに「おう!送れ!送れ!」と言っている。
「悪いな。
嫁さんによろしく言っておいて。」
「あぁ。大丈夫。いつものことだから。」
武蔵さんは既婚者のようで、言われてみれば左薬指に指輪をしていた。
隼人さんは美智さんの為にタクシーを拾いに行っていて、きっと武蔵さん達についていくのだろう。
「南はどっち方面?」
「私、反対方向なので。
1人でも大丈夫です。」
「南ちゃん。気を遣わないで。
せめてタクシーで帰りなよ。」
武蔵さんが優しく声を掛けてくれた。
飲み会のうちにすっかりみんな『南ちゃん』呼びが定着してなんだかくすぐったい。
「俺がそっちだから。」
加賀さんが名乗り出て、それについて武蔵さんが意見した。
「そっちって、だって雅也のマンションは……。」
どうやら気を遣わせたみたいで心苦しい。
武蔵さんは何か言葉を飲み込んで続けた。
「あぁ、分かった。
ちゃんと送り届けるんだぞ。」
「へぇへぇ。」
やる気のない返事をした加賀さんに武蔵さんは心配そうな眼差しを残しつつ、隼人さんが呼んだタクシーに乗り込んだ。
武蔵さん達を見送ると、加賀さんと2人になった。
「私なら大丈夫です。」
酔っているわけでもないし、方向の違う加賀さんに送ってもらうなんてそれこそ心苦しい。
「南は女の子だろ。
誰かに襲われでもしたら俺が後味悪い。」
居酒屋のベンチにもたれていた加賀さんが歩き出す。
そして付け加えるように言った。
「どうせ女のところに行くついでだ。」
女………。
「そっか。彼女さん。」
「彼女なんて居ねぇよ。」
「え?だって………。」
見上げた加賀さんの顔はさっきまでの笑顔とは違う、いつもの口の端を上げた顔で言った。
「やりたい時に後腐れなくやれる女って最高だろ?」
「やれ………。」
最低。
なるほど。それは平手打ちも厭わない。
「何か言いたげだな。」
「いえ。」
「お互いに同意の上さ。」
だから何だと言うのか。
先を歩く加賀さんが急に遠い存在に思えた。
腕を頭の後ろで組み、悪びれることなく言う。
「南には分からない世界さ。」
分かりたくもない。
そこから加賀さんも何も話さなかった。
少し加賀さんを買い被っていたみたいだ。
ちょっと見た目がいいからって何かやらかした自業自得で同情の価値もない。
そんな第一印象となんら変わりないクズ男なのだから。
「送って頂いてありがとうございました。」
「ついでだって言ってるだろ。」
改めて言わなくても分かってる。
返事をする気にもなれずにアパートへと足を向けた。
「じゃーな。
腹しまって寝ろよ。」
手をヒラヒラさせて加賀さんは夜の闇へと消えて行く。
引き留めたい僅かな衝動を飲み込んで自分のアパートの階段を上った。
お店の外では同じ帰り道を集ってみんなで話す。
通りすがるだけだった光景の輪に自分もいることがやっぱり慣れない。
「ミッチーは俺が送るよ。」
武蔵さんの肩にもたれかかった美智さんは楽しそうに「おう!送れ!送れ!」と言っている。
「悪いな。
嫁さんによろしく言っておいて。」
「あぁ。大丈夫。いつものことだから。」
武蔵さんは既婚者のようで、言われてみれば左薬指に指輪をしていた。
隼人さんは美智さんの為にタクシーを拾いに行っていて、きっと武蔵さん達についていくのだろう。
「南はどっち方面?」
「私、反対方向なので。
1人でも大丈夫です。」
「南ちゃん。気を遣わないで。
せめてタクシーで帰りなよ。」
武蔵さんが優しく声を掛けてくれた。
飲み会のうちにすっかりみんな『南ちゃん』呼びが定着してなんだかくすぐったい。
「俺がそっちだから。」
加賀さんが名乗り出て、それについて武蔵さんが意見した。
「そっちって、だって雅也のマンションは……。」
どうやら気を遣わせたみたいで心苦しい。
武蔵さんは何か言葉を飲み込んで続けた。
「あぁ、分かった。
ちゃんと送り届けるんだぞ。」
「へぇへぇ。」
やる気のない返事をした加賀さんに武蔵さんは心配そうな眼差しを残しつつ、隼人さんが呼んだタクシーに乗り込んだ。
武蔵さん達を見送ると、加賀さんと2人になった。
「私なら大丈夫です。」
酔っているわけでもないし、方向の違う加賀さんに送ってもらうなんてそれこそ心苦しい。
「南は女の子だろ。
誰かに襲われでもしたら俺が後味悪い。」
居酒屋のベンチにもたれていた加賀さんが歩き出す。
そして付け加えるように言った。
「どうせ女のところに行くついでだ。」
女………。
「そっか。彼女さん。」
「彼女なんて居ねぇよ。」
「え?だって………。」
見上げた加賀さんの顔はさっきまでの笑顔とは違う、いつもの口の端を上げた顔で言った。
「やりたい時に後腐れなくやれる女って最高だろ?」
「やれ………。」
最低。
なるほど。それは平手打ちも厭わない。
「何か言いたげだな。」
「いえ。」
「お互いに同意の上さ。」
だから何だと言うのか。
先を歩く加賀さんが急に遠い存在に思えた。
腕を頭の後ろで組み、悪びれることなく言う。
「南には分からない世界さ。」
分かりたくもない。
そこから加賀さんも何も話さなかった。
少し加賀さんを買い被っていたみたいだ。
ちょっと見た目がいいからって何かやらかした自業自得で同情の価値もない。
そんな第一印象となんら変わりないクズ男なのだから。
「送って頂いてありがとうございました。」
「ついでだって言ってるだろ。」
改めて言わなくても分かってる。
返事をする気にもなれずにアパートへと足を向けた。
「じゃーな。
腹しまって寝ろよ。」
手をヒラヒラさせて加賀さんは夜の闇へと消えて行く。
引き留めたい僅かな衝動を飲み込んで自分のアパートの階段を上った。