いちばん近くて遠い人
 仕事は不動産。
 マンションの分譲からアパート賃貸。
 店舗から一軒家も。

 加賀さんのところはマンションの分譲が主な仕事だ。

「次のお客様は酒井様。
 新婚でマンションを探されてる。
 君のことは新米アシスタントとして紹介する。」

「はい。」

 営業車に乗り込む加賀さんに慌てて声をかけた。

「僭越ながら運転させて頂きます。」

「………ほうきで飛んでくれるなら。」

「………ご冗談を。」

 まだ魔女を引っ張るつもり?
 けれど加賀さんは至って真面目な顔で話す。

「違うのなら君は助手席で。
 着くまでにマンションの情報に周辺施設、お客様の情報を頭に叩き込め。」

「は、はいっ。」

 資料をドサッと渡されて気が引き締まる思いがした。
 新米アシスタントと紹介しても出来得る最大限の仕事はやれということだ。

「下調べが好きな夫婦だ。
 ここの地域に住めば公園、保育園、幼稚園、学校関係に、スーパー。
 病院や公共施設まで。
 どのように住みやすいか、便利なのか。
 マンションに付随するコンシェルジュのようなものはどうか。」

 つらつらと並べられた言葉はマンションを見る上で気になるところではある。

 それをわざわざ指摘するくらいだ。
 相当なこだわりがあるのだろう。

「下手したら君より詳しいかもな。」

 君………ね。










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