いちばん近くて遠い人
10.俺の大事な子
 コンビニを出ると「ヤダ、魔女」という声が耳に入った。
 呼ばれたその呼び方には嫌悪感がたっぷりと含まれていた。

 久しぶりに『魔女』と呼ばれて僅かに心は動揺する。
 多分、総務部の子達だ。

「ガキかよ。」

 隼人さんが聞こえるように言って彼女達の反感を買った。

「ヤダ。あの男、魔女に食われたんじゃない?」

 クスクス笑う彼女達に殴りかかりそうな隼人さんを美智さんが止めた。

「言えば言うほどあぁいうのは盛り上がるから放っておけばいいの。」

 そう。そうするしかない。
 それは私が今まで生きてきた処世術。

 私たちが肩を落として歩いているとその横をすごい勢いで彼女達の方へ向かう人がいた。

「お前ら、こいつらが俺の部下だって知ってて言ってんだろうな。」

 加賀さん………。

 珍しく苛立ちを前面に出した姿は容姿と長身も相まって恐怖すら感じる。
 彼女達も言葉を失っている。

 加賀さんは加賀さんで有名人らしく、そんな人にすごい剣幕で言われれば誰でも萎縮する。

 心配で歩み寄った体を引き寄せて加賀さんは言ってのけた。

「俺の大事な子を傷つけたら承知しないからな。」

 抱き寄せた頭にキスまで落とすとキャー!!と悲鳴が上がった。

 腕の中で慌てているのは、隼人さん。

「ちょ、何、考えてるんですか!
 僕、僕ですよ?」

「照れんなよ。」

 見つめ合う2人に再びのキャー。
 どうやら悲鳴ではなく、どちらかと言えば黄色い声。

「な、こいつ照れ屋だから内緒にしといてやってくれよ。」

 指でシーッの形を作り唇に当てて、ご丁寧にウィンクまでした加賀さんに彼女達はコクコクと素直に頷いた。








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