いちばん近くて遠い人
「医務室行きましょう。」

 昼休み、立ち上がってそう言った相手は目を丸くした。

「私では不本意だとは思いますが、私と一緒に行って頂きます。」

「南ちゃーん。
 まださっきのこと引っ張るの?」

 隼人さんの隣で武蔵さんはクククッと笑う。

「俺も見たかったなぁ。
 まさかのカミングアウト。」

「だから!武蔵さん!違うから!!」

 事務所に戻ってきてから武蔵さんに何があったのか、洗いざらい話したことで武蔵さんも隼人さんをからかって遊んでいる。

「あぁ。俺もどうせなら隼人と医務室行きたいわ。」

 口の端をあげる加賀さんに言葉を重ねた。

「えぇ。だから不本意でしょうけど。
 隼人さんとだと適当に言い逃れて行かない気がするので。」

「医務室に用、無いけど?」

 無言で睨むと両手を上げた加賀さんが降参のポーズを取って「分かった分かった。行けばいいんだろ?」と立ち上がった。

「大丈夫か?俺も行こうか。」

 武蔵さんが腰を浮かせたけれど、それを加賀さんが制止した。

「いいから。もう昼休みも終わる。
 ちょっと行くだけなんだろ?」

「えぇ。武蔵さん。大丈夫です。」

 心配そうな武蔵さんに頷いて見せて先を行く加賀さんの後を追いかけた。



「どうしたんですかね。」

 またしても南と2人になる加賀に隼人は不満顔だ。

「南ちゃん、よく見てるよ。
 雅也あいつ体調が多分たが、最悪だ。」

 武蔵は感心しつつ心配そうな表情を浮かべた。

「そうなの?
 そういえばコンビニの所に来た時は加賀さんらしく無かったけど………。」

 美智も何か考えるように黙ってしまった。

「ま、南ちゃんに任せよう。」

 昼休み終了のチャイムとともに3人は再び事務処理に手をつけ始めた。
 隼人だけは腑に落ちない顔をしながら。






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