いちばん近くて遠い人
 医務室に行くと小声で「まだ寝てる」と教えてくれた。
 ゼリー飲料やスポーツドリンクを冷蔵庫へ入れてもらえるように頼んでから、そっとカーテンの中へ入った。

 本当だ。まだ寝てる。

 整った顔立ちは安らかな呼吸を繰り返している。

 とりあえずは大丈夫そうだと離れかけた私に寝言なのか起きているのか分からない声がした。

「……行かないで。」

 額にしわを寄せ、目を閉じたまま顔を歪めた加賀さんの頬にそっと触れた。
 そのまま髪を後ろへ流しながら撫でるとくすぐったそうにした後に安心したような顔に変わった。

「ふふっ。本当に子どもみたい。」

 子どもの頃に風邪をひくと側にいてと甘えた妹を思い出して懐かしくなった。
 風邪だと認めると途端に甘えっ子になって。

 可愛いところもあるんだなぁ。
 そんなことを思いながら事務所へと戻った。








< 35 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop