いちばん近くて遠い人
 踵を返して医務室を出ようとしたところで呼び止められた。

「南、ちょっと待て。
 ちょうどいい。渡しとく。」

 振り返ると小さな紙袋が飛んできて、それをキャッチした。

「なんですか?これ。」

 有名ブランドのロゴが入った紙袋の中には同じロゴが描かれた長細い箱が入っている。

「ハンカチの礼。」

「こんな高価なもの……。
 ハンカチを返してもらえればそれでいいです。」

「こういうのは可愛く「ありがとう」とでも言ってもらっときゃいいんだよ。」

「でも……もらう筋合いは……。」

「ったく。」

 頭をかきながら歩み寄ってきた加賀さんが紙袋を手にして中身を出した。
 箱もすっかり開けてしまって中からは可愛らしいネックレスがキラキラしながら加賀さんの手につかまれて揺れる。

 そして勝手に私の首につけ始めた。

「あの、加賀さん!
 だからもらえませんってば!」

 首に手を回して付けている加賀さんが近くて、コロンなんかではない男の人の香りが鼻をついて、とにかく落ち着かない。

「じゃ。礼をもらっとく。」

 肩に手を置かれ、顔を近づけた加賀さんにキスをされた。

「なっ。」

 顔を離した加賀さんから催促される。

「ほら「ありがとう」は?
 ハート付けろよ。」

「………バカ!」

 どうしていいのか分からなくて加賀さんを突き飛ばして医務室を出た。



 医務室では小さな笑い声がしていた。

「ハハッ。バカ、か……。
 可愛いもんだな。」

 頭をかいて呟いた。

「やっちまったな。」


 医務室の外のもう1つの扉の前で一部始終を見ていた隼人が固まっていた。

「……なんなんだよ。アレ……。」





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