いちばん近くて遠い人
「よろしければ現地見学ツアーもあります。
 私も上司と街を見に行かせて頂いたんですが、新しい街でいい雰囲気でした。」

「あなたみたいな若い子でも?」

 若いってほどじゃないけど、私よりは奥様の方が年上だから、それは言わないでおいた。

「はい。お洒落なカフェや雑貨屋さんが何軒もありましたし。
  私が住んでも楽しいだろうなぁと思いました。
 お洒落なのに、カフェにはキッズスペースがあったり、子育てしやすい街じゃないかと。」

「いいなぁ。
 やっぱり直接見た方がよく分かるよね。」

 夢見がちに言う奥様に「是非、行かれてください」とお勧めした。

 たっくんは再びボールを持ってきて今度は「えい!」と力を込めて投げた。
 それをキャッチすると目をキラキラさせて手を出してくれる。

「うーん。でもこの子達がね。」

 ゆっくり見れないから……。
 そっか。どうしたらいいんだろう。

「どうしました?困ったことでも?」

 武蔵さんがこちらに来てくれて、簡単に事情を説明した。
 ご主人はゆっくりモデルルーム内を見たいと下の子を連れて見に行った。

「そうですか……。
 では、保育士もついていき、スケジュールもきつ過ぎない見学ツアーを上司に提案してみます。
 実際に住まわれてからはお子さんのいる生活ですので、お子さんも含めて一緒に見て頂いた方がよりイメージがつくかと思います。」

 そうか。そうだ。
 お子さんをなんとかすればゆっくり見れるんじゃないんだ。

 奥様も安心したように「お願いします」と笑顔を見せた。

「その時は南さんも一緒に来てくださる?」

「えっ。私ですか?」

「この子、南さんのこと気に入ってるみたい。」

 嘘……私、どちらかといえば子どもに嫌われるタイプだと……。

「私がいても一緒に遊ぶなんて珍しいんですよ。」

 ねー。と奥様が同意を求めると、意味が分かっているのか、ねー。とたっくんも返した。







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