いちばん近くて遠い人
14.困った問題
「こんなことに付き合わせて悪いな。」

「いえ。これも仕事ですから。」

 急にいらした隼人さんのお客様の為にジュースとケーキ屋さんにデザートを調達に来ていた。

 住まわれるご家族とそのご両親、つまり祖父母から孫までの3世代が勢揃いで来たのだ。
 会議室で模型を用いて隼人さんが急遽対応している。

 デザートは分からないという加賀さんに私がついていくことになった。

「おばあちゃん世代だと和菓子もいいかもしれないですけど。」

「よし。和菓子も買おう。
 多めに買えばいい。
 余ったら持って帰ってもらってもいいし、俺たちが食べてもいい。」

 事務所に簡単なお茶菓子なら用意がある。
 それにコーヒーやお茶も。

 けれど子どもにコーヒーやお茶はないだろうと自ら買いに走る加賀さんの方がすごいと思う。

 それに、簡単なお茶菓子より急に来た自分の為に用意してくれたケーキの方が嬉しいに決まっている。

 こういうところが人たらしの所以でもあるんだろうけど。



 会議室にケーキやジュースを持っていくと「わぁ」と歓声が上がった。

「お好きなのをどうぞ。」

 子ども達は素直にどれがいいか選んでいる。
 大人は遠慮しているのか手を出さない。

 一緒に持って来てくれた加賀さんがとびきりの営業スマイルで勧めた。

「甘い物を取って休憩も挟んでください。
 焦らずに、よりよい住まいを選んで頂きたい。」

「そうして高いのを買わせようってのかい?」

 見るからに頑固そうなおじい様が口を挟んだ。

 急に押しかけてくるくらいのお客様だ。
 偏屈で一癖あるだろうとは思っていたけれど………。

 加賀さんはこんな一言、物ともせずに微笑んだ。

「いえ。お客様にとってより良いものを。
 うちのじゃなくてもいいんです。
 比べて頂いていいと思った方にしてください。
 一生に一度の大切なものですので。」



「よく切り返せますね。さすがでした。」

「あんなの序の口だろ。」

 事務所に戻りながら感嘆の声を上げた。

 私には無理だ。
 多分、その場で黙ってしまうのが関の山。

「あぁいうのは俺が対処するから安心しろ。
 ま、岩城様のように追い出されちゃそうもいかないが。」

 頭をかく加賀さんが意外だった。

「もしかして……気にしてます?
 立ち聞きしてたの。」

 顔を片手で覆った加賀さんが「馬鹿。掘り返すな」と言って、外したその手でそのまま私の頭をかき回した。

「さすがにあれには肝を冷やした。
 フォローしてやるって言っておきながら聞き耳を立てるしか出来ないなんて情けない。」

 ますます意外だ。

 ライオンが崖から子どもを突き落とすように、加賀さんも突き放して成長させようとするタイプなのかと………。

 部下思いなんだよね。

 最初の頃に美智さんが言っていた、ボスが認めた子だもの。私達はついていくわよ。の言葉を思い出して改めて納得する。

 今回のケーキもそう。
 加賀さんは私たちの為に出来る限りの事をしてくれる。

 私もそれに応えなければ。







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