いちばん近くて遠い人
 奥様を一目見て驚いた。
 旧姓、本田亜由美。
 私の高校の頃の同級生だった。

「英里!
 まさかこんなところで会うなんて。」

「亜由美も元気そうで。
 結婚したんだね。おめでとう。」

「ヤダ。報告遅れちゃったね。
 普通の旦那で恥ずかしいんだけど。
 仕方ないよね。
 私は英里みたいにとびきり綺麗ってわけじゃないしさ。」

「そんなこと。
 幸せそうで何よりだよ。」

 亜由美が契約を考えているのは太田様にお勧めしているマンションとは別の、そこはまだ工事も着手していない更地のところだ。

 その為、打ち合わせはモデルルームだった。

「モデルルームってなんでも良い物がついてるでしょ?
 こんなにいい物には出来なくて普通の普通のってやっていったら、なんだか悲しくなるよね。」

 亜由美は力なく笑った。
 学生の頃から『普通』が口癖だった。

 それでも私の数少ない友人……だった。
 卒業してからは連絡を取らない程度の、だったけれど。

「学生の頃からさ。
 そうそう。英里といたしさ。
 普通の私じゃ美人の引き立て役じゃない?
 だからさぁ。」

 とりとめない話は『普通』だからで、全て進む。
 当時も少し変だなとは思っていたけれど、今はなんだか異様さまで感じる。

 加賀さんの言いたいことが分かる気がした。
 加賀さんに目配せすると加賀さんは亜由美に分からないように肩を竦めた。

「そういえば英里って結婚は?彼氏は?
 もしかして加賀さんが英里の恋人?」

 どうやって切り返せば………。
 もしもの時に恋人のフリをするんだっけ。

 黙っていると加賀さんが助け舟を出してくれた。

「私が言い寄っているんですが、恥ずかしい話、なかなか振り向いてくれないんですよ。」

 嘘ばっかり。
 歯が浮くようなことをスラスラと……。
 ある意味、尊敬する。







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