いちばん近くて遠い人
 南とひとしきり話した後に立ち上がって礼を言った。

「邪魔したな。」

「いえ。」

 あんなこと話すつもりじゃなかった。
 ……南は不思議な奴だ。
 少しだけ素の自分になれる気がする。

 会議室を出てずいぶん歩いてから、伝言があったことを思い出して来た道を戻った。

 再びノックしようとした手を止める。

 ドアの小窓から見える南が何かに愛おしそうにキスをしていた。
 それは、ゴツゴツした……男物の指輪?

 指輪は長いチェーンで繋がれて首にかかっていた。

 そりゃ、俺のは受け取れないって言うよな。

 伝言を伝えることも、会議室に再び入ることもせずに事務所に戻っていった。








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