いちばん近くて遠い人
20.揺れる心
　事務所に戻ってみても気持ちが晴れなくて飲み物を買いに席を立った。
　自販機でカフェオレを選ぶと胸が軋むように痛くなった。

「南ちゃん。大丈夫？」

「え？何がですか？」

　隼人さんに声をかけられて慌てて顔を上げた。

「最近の加賀さんは変だよ。
　もしかして本人に気持ちを伝えたから避けられてるとか？」

　力なく頭を振って否定する。
　けれど、みんなにバレバレだったんだ。
　本人に気づかれて避けられているのかもしれない。

「あんな……加賀さんなんてやめなよ。」

　隼人さんの言葉に頷けずにいると、隼人さんが思わぬ提案をした。

「いいよ。分かった。それなら………。
　加賀さんを好きでいてもいいから僕と付き合って。」

「……え。」

「それで、少しずつ僕を見てくれたらいい。
　不毛なのも分かってるんだろ？
　今の南ちゃんは見てられないんだ。」

　不毛なのは分かっていた。
　なのに、今の加賀さんの態度が辛くて隼人さんの優しさに心が揺れる。

　隼人さんの優しさに寄り掛かってしまいたい。

　隼人さんは言葉を重ねた。

「加賀さんとは未来がない。
　けど南ちゃんには幸せになって欲しい。
　出来ることなら僕の手で。
　だから…………。」

　何も言えずにいる私に「考えておいて」と言い残して隼人さんは事務所へ戻って行った。

　ここまで言ってくれるのに、何も言えなかった。







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