いちばん近くて遠い人
 加賀さんは私を違う世界に連れてきてくれた人。
 言わば、この世界の私の水みたいなものだった。

 水は無ければ生きていけない。
 けれど水は少しの量でも致死量に達する。

 少しずつ水が漂って、もう顎の下まで水に浸かっていた。
 息苦しさを感じているのに気づかないほどに干からびていた心は麻痺していて。

 そして今はもう足さえもつかない、戻れないところまでになってしまっていた。
 頭のてっぺんまで浸かった水に溺れて呼吸もままならない。

 そこから救い上げてくれるのは……。

 とりとめない考えに頭を振って追い出した。

 そこから這い出るくらいの根性がなければ。
 そんなことをぼんやり思った。





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