いちばん近くて遠い人
21.失くして得るもの
 嫌なことはまとめてやってくる。
 やっぱりそれはセオリーなの?

 何にも代えがたいモノを失くしてしまったことに気づいて、帰り道を何度も引き返していた。

「おい。南。
 ずいぶん前に帰ったろ。」

 聞き覚えのある声に顔を上げる。
 こんな時に会って、しかもこんな時は目が合うなんて………。

 加賀さんの顔を見て気が緩んでしまった。
 目から涙があふれた。

「おい。どうした。大丈夫か。」

 歩み寄った加賀さんが腕を伸ばして引き寄せた。
 その温もりが余計に涙を助長して止まらなくなった。



 南の泣いたところを初めて見た。
 こいつが泣くなんて………。

 体が自然に動いて抱き寄せていた。
 南はまだ俺の胸で泣いている。

 しばらくして落ち着いてきた南の頬を拭って、髪を後ろへ流してやりながら優しく聞いた。

「どうした。なんかあったのか。」

「ごめ……ごめんなさい。
 ご迷惑を………。」

「そんなこと気にする奴があるか。
 どうしたんだ。言ってみろ。
 ……言えないことか?」

 頭を左右に振る南が「指輪を……失くしてしまって」と消え入る声で言った。

 僅かに胸の痛みを感じながらも南をもう一度、抱き締めた。

「俺も探してやるから泣くな。」

「すみません。こんなことで。」

「そういう時は「ありがとう」って言え。」

「はい。……ありがとうございます。」

 体を離す南の手を取って、指を絡めた。
 こんなに取り乱す南が心配でどこかに触れていたかった。

 来た道を戻りながら南はポツリポツリと話し始めた。

「どうしても、大切な物で………。」

「あぁ。」

「父の……形見なんです。」

 驚いて立ち止まると不思議そうに見上げる南と目が合った。

「あの……加賀さん?」

 父親の形見……。そいつは敵いやしない。
 こぼれてしまいそうな失笑をなんとか噛み潰す。

「あの、どうしました?」

「いや。そういうのを後生大事に持ってる奴に見えなかったんだ。」

「どういうイメージですか。
 なんだかひどくないですか?」

「いや。うん。悪かった。」

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