いちばん近くて遠い人
 一緒に探してくれる加賀さんはいつになく優しかった。
 指だけを絡ませた繋ぎ方でずっと側にいてくれる。

 不謹慎だけど、この時間がずっと続けばいいのに。そんなことを考えてしまう。

 しばらくすると加賀さんの携帯が鳴って、加賀さんがそれを確認した。

「悪い。ちょっといいか。」

 そう言いながら電話を取る。
 けれど、指は絡めたまま。

 近い距離での電話は、嫌でも相手の声が漏れ聞こえる。

 相手は女性みたいだ。
 きっと、寝かせてくれないたくさんの人の中の1人。

 行って……しまうんだろうな。
 そんな気持ちを察したように加賀さんがゆるく絡んでいた指をもう一度絡め直した。

 それだけで私の胸は高鳴って仕方がない。

 どうすれば女の人が喜ぶか心得ているみたいな扱いがすごく嫌なのに、その手口にやられてしまう。

 他の女性と電話してるくせに……。
 最低なのに……。

『まだ来ないの?
 待ちくたびれちゃったわよ。』

「悪い。今日、行けなくなった。」

『もう!!久しぶりに会えると思ったのに。
 次はあるんでしょうね?』

「どうかな。その時はまた連絡する。」

 最低な会話だ。
 それなのに残ってくれた加賀さんを嬉しく思うなんて。

「さぁ。探すぞ。」






< 72 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop