いちばん近くて遠い人
アパートの前まで戻ってきても見つからなかった。
ため息をこぼして努めて明るく言った。
「もう大丈夫です。
ありがとうございました。」
加賀さんは優しく微笑んで頭を撫でる。
「馬鹿。諦めんな。」
そう言ってアパートの階段を上っていく。
「南の部屋は何階だ。
アパートの辺りで落としたかもしれないだろ。」
「3階です。」
とことん付き合ってくれるんだろうな。
そういう優しさが罪なのに。
「もしかしてコレか?」
加賀さんが手にしていたのは確かに父の指輪だった。
「そうです。それです。
良かった。良かったです。」
また涙があふれて加賀さんはそんな私を引き寄せて頭を撫でてくれた。
そしてチェーンごと落ちていた指輪の汚れを払って繋いでいない手の方に渡してくれた。
「親父さんもここまで大切にされて嬉しいだろうよ。」
「大切な……父なので。」
「あぁ。」
見つかって嬉しい。
けれどタイムリミットだ。
「すみませんでした。
今からでも間に合いますか?」
「何が。」
「あの、………女性のところ。」
「ハハッ。今日はもういい。」
笑い出す加賀さんに何も言えなかった。
何か考えているような加賀さんが少ししてから言い直した。
「いや。行くか。」
うん。そうだよね。
私に引き止める権利はない。
「じゃーな。」
ずっと絡んだままだった指先は簡単に離れてしまった。
離れた指先。
加賀さんが見えなくなってからその指先を手で包み込んだ。
南と別れて呟いた。
「手を……繋いだ手を離したくらいでこんな………。」
愛おしくてそれに苛立つように繋いでいた指先に噛み付いた。
ため息をこぼして努めて明るく言った。
「もう大丈夫です。
ありがとうございました。」
加賀さんは優しく微笑んで頭を撫でる。
「馬鹿。諦めんな。」
そう言ってアパートの階段を上っていく。
「南の部屋は何階だ。
アパートの辺りで落としたかもしれないだろ。」
「3階です。」
とことん付き合ってくれるんだろうな。
そういう優しさが罪なのに。
「もしかしてコレか?」
加賀さんが手にしていたのは確かに父の指輪だった。
「そうです。それです。
良かった。良かったです。」
また涙があふれて加賀さんはそんな私を引き寄せて頭を撫でてくれた。
そしてチェーンごと落ちていた指輪の汚れを払って繋いでいない手の方に渡してくれた。
「親父さんもここまで大切にされて嬉しいだろうよ。」
「大切な……父なので。」
「あぁ。」
見つかって嬉しい。
けれどタイムリミットだ。
「すみませんでした。
今からでも間に合いますか?」
「何が。」
「あの、………女性のところ。」
「ハハッ。今日はもういい。」
笑い出す加賀さんに何も言えなかった。
何か考えているような加賀さんが少ししてから言い直した。
「いや。行くか。」
うん。そうだよね。
私に引き止める権利はない。
「じゃーな。」
ずっと絡んだままだった指先は簡単に離れてしまった。
離れた指先。
加賀さんが見えなくなってからその指先を手で包み込んだ。
南と別れて呟いた。
「手を……繋いだ手を離したくらいでこんな………。」
愛おしくてそれに苛立つように繋いでいた指先に噛み付いた。