いちばん近くて遠い人
 南は席に戻っていなかった。

 それはそうか。
 向こうの方が顔も合わせたくないよな。

 お陰でこっちは心が軽い。
 ハハッ。最低だな。俺。

「雅也。
 さっきと打って変わって上機嫌だな。
 まさかこの短時間に…やってきてないよな?」

 武蔵に汚いモノを見るような目で見られ、不平を並べようと思ったところで、ふと気づく。

 気まずい南が席にいないせいだけじゃない。
 言われてみれば苛立ちが薄れていた。

 欲求不満は解消したわけじゃない。
 もちろんこの短時間に女とやってなどいない。

 ただ、苛立ちは薄れていた。

 それが何故かは分からない。
 とにかく否定しなければ、武蔵に何を言われるか堪ったもんじゃない。

「やめろよ。
 人をケダモノみた……い、に。」

 文句を言いながら気づいてしまった。

 あぁ。あれのせいか。
 機嫌がよくなったのは。

 自分でも把握していなかった気持ちの上昇、そしてその訳に気づいてうなだれた。

 あんなこと言っておいて………。

 俺は多分、大馬鹿者なんだと思う。








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