いちばん近くて遠い人
「今日は帰れ。」

「でも……。」

 体を離した加賀さんが微笑んで言った。

「大丈夫だ。
 南から見て今の俺はダメそうか?」

 微笑んでいる加賀さんは大丈夫そうに見える。

 でも……ここで離れてしまったらまた捕まえられないところに行ってしまいそうな気がして、思わず手を伸ばした。
 手は子どもみたいに加賀さんのスーツの端を握った。

 不安なのを感じ取ったみたいにクスリと笑った加賀さんが再び頭を撫でる。

「もう逃げたりしない。」

 その眼差しを信じようと思って手を離した。







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