いちばん近くて遠い人
27.餞別の
 そんな私たちの前に忘れていたかった人物が現れた。

「探したわ。」

 待ち伏せしていたのか、本当に探したのか。
 恭子さんがひどく怒った様子で立っていた。

「ひどいじゃない。
 一番の金ヅルだったのに!」

 叫ぶように騒ぎ立てて道行く人がざわめいた。
 それでも恭子さんは罵るのをやめようとしない。

「雅也が余計なことしたせいでね!
 明日付けで台湾に強制的に出向なのよ!
 どうしてくれるのよ!!!」

「さすが綾部様は仕事が早い。」

 涼しい顔で言ってのける加賀さんはいつもの加賀さんだ。
 
 けれどその態度は恭子さんを逆撫でしたようだった。
 逆上した恭子さんが矛先を私に向けた。

「あんた。
 雅也のこと何も知らないんでしょ?」

「ッ!やめろ。」

「この人のお兄さん、この人のせいでね………。」

「やめろって言ってるだろ!!」

 悲痛な叫び声は周りのざわめきをひどくさせた。

 人だかりができそうなざわめきの中で「お巡りさん!ここです。ここで喧嘩が。」という声が聞こえて、余計に騒ぎが大きくなった。

 恭子さんは悔しそうに顔を歪めて人混みの中に姿を消した。
 その恭子さんに人だかりが注目して騒いでいる。

 私達は騒ぎに便乗して、そっとその場から立ち去った。









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