おもかげlover...〜最上級に最低な恋〜
「けいいちは、またチャラチャラしたもん食ってー!なにチャラチャラ歩いてんだよ」


やまやまの声につられて、わたしはキッチンの入り口を見た。

「いやいや、これのどこがチャライんすか?笑」


相変わらず細身の黒パンツに黒いジャケット。束ねた髪型がなぜか似合ってしまっている。

そして口には何か…

「あっ…」思わず声が出た。

「おつかれっ!」と、その口に咥えていたものをわたしに見せるように顔の横で振っている。

手紙を巻いた、棒付きキャンディ。



佐藤くんって、やっぱり上手だなっ…って。

言葉が交わせないからそうやって読んだよのサイン。
わたしはハニカミながら「おつかれさまです」を返した。


ふたりだけの…とか、秘密の…とか、サイン、合図とか。
なぜかそういう言葉や場面に惹かれやすいわたしには最高のシチュエーションだった。
でも、チョコはいらないって自分から手紙を書いたのだから…もうこんなドギマギするような秘密のやりとりも終わり。



チャラいだなんだ、新作のDVDがなんだかんだと笑う2人を背に、わたしはバックヤードへ着がえに向かった。
支度を済ませてコートを羽織ると、ついポケットを確認したくなる。
ミルクチョコレートが入っていたポケットは少しの重みだけど存在感があった。
今まであったことがなくなるのは寂しいな。って…
もうあの大きな字のヒトコトも楽しみにはできないんだ。

そんな風に思いながら、数日前を思い出すかのようにポケットに手を入れてみた。

″ふぇっ!?″

と変な声が出て、ほころんでいく顔が鏡に映った。
掌に乗せたそれを見つめて、満ちた気持ちを噛み締めていた。
小さなチョコレートには付せんがついていて、

-これならいいかな?しつこいかオレ。笑-

さっき見た佐藤くんの笑顔が脳裏によぎって、わたしは首を振った。うれしいのはチョコと秘密っぽいやりとり。

それ以上はなにもないと…
わたしは潤くんの彼女で、佐藤くんは潤くんの親友なんだからと。


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