おもかげlover...〜最上級に最低な恋〜
「本人って…無理でしょ?」


「未成年の弟さんしかいなくて…」


どうか佐藤くんに、この会話が聞こえていませんように。
揺れるカーテンを見つめて握った手に、ギュッと力が入った。


シャッとカーテンが開いて、


「よかった、安定してますね」

と看護師さん。


「あの…大丈夫なんですか?」


看護師さんは持っていた紙に何か書きこみながら、優しい口調でわたしに聞いた。


「彼って喘息持ちとか聞いたことある?」


「いいえ…何にも知らないです」


症状を見た時に、なんとなく喘息かな?とは思っていた。


「身内の方じゃないから、あまり言っちゃダメなんだけどね…
とりあえず発作は喘息の発作だと思う。安定しているから大丈夫よ。あなたがいてくれて彼、命拾いしたね。」



看護師さんの笑顔を見て一気に安心した。


とりあえず、佐藤くんが起きて話せる様になってから先生と話して再診察を受ける流れになるらしい。


熱はまだあるからダルさは残るけど、最悪の状態になっている訳じゃないからすぐに帰れると思うと説明があった。


「ご家族の弟さんと連絡ついたようです!ここへ来れる様なので…」


未成年ではない方の弟さんと連絡が取れたみたいで、看護師さんはチラッとわたしを見た。


時刻は深夜0時を回っている。


家族ではないわたしがいるのはもちろんダメなようで、柔らかく帰るよう伝えられた。


看護師さんに名前を聞かれて答えると、″伝えておきますね″と。


わたしは、体調が悪化したりしませんように、と祈りながら枕元の台に棒付きキャンディを置いて病室を出た。


冷え切った夜の空気を吸い込んで
「あっ…車ないじゃん…」と、出た声は静かな病院の緊急出入り口で響いた。


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