溺愛銃弾 ~フルメタル・ジャケット~
1-1
「・・・ただいま」

「おかえり(いつき)

アパートのドアを開ければすぐ、玄関から繋がった1DKのキッチン。目隠し代わりの冷蔵庫の上から顔を覗かせる、着流しにたすき掛けのナイスミドル。支倉(はせくら)陶史郎(とうしろう)さん、39歳。

「今日はハマグリの酒蒸しと生姜焼きだよ。着替えておいで、もう出来るから」

「うん。・・・ありがと」

黒のビジネスパンプスを脱ぎ奥の部屋へ。同じく黒のパンツスーツを脱いで、シワ取りスプレーをまぶし。ハンガー掛けしてクローゼットに仕舞う。

Tシャツにハーフパンツのラフな格好に着替えたら洗濯物を片手に、洗面所で手洗いうがい。それを終える頃には台所の小さな食卓に、陶史郎さんの手料理がほぼ毎日のように並んでる。・・・というワケだけど。

「今日も一日お疲れ様だね。はい乾杯!」

カフェテーブルよりはマシってぐらいの大きさの、丸テーブルを挟んで向かい合い、発泡酒の缶をカシャンと軽く合わせて。
 
「やっぱり美味しいねぇ、樹と一緒だと」

満面の笑みでニコニコしながら、陶史郎さんはひどくご機嫌だ。

「仕事はどうだった?ブラックなこと言われたらすぐに言いなさい。僕が潰しに行くから」

「・・・大丈夫、普通だから」

真顔で否定しておく。この人なら本気でやりかねない。 

「陶史郎さんこそ、毎日ウチに来て大丈夫・・・?いくら玉置(たまき)さんがいるっていっても限度ってものが・・・」

ハマグリを殻から外しながら少し上目遣いに。すると。

「昼間ちゃんと仕事してるし、夜だって樹を可愛がった後に接待(つきあい)には顔も出してるよ、僕は」

涼し気に言われる。

・・・・・・・・・。食事中に可愛がるとか言わないで欲しい・・・・・・。
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