溺愛銃弾 ~フルメタル・ジャケット~
『樹』

ここに来てから名前を呼ばれる回数が多いことに気付く。傍にいても少し離れただけでも。迷子になるわけでもないのに、まるで首輪を手繰り寄せるように名前を呼ぶ。

『おいで』

・・・呪文みたいだなと思う。何も考えなくても、無意識に吸い寄せられるから。

服も食事もぜんぶ陶史郎さんが用意してくれて。自分はただ存在してるだけ。なのに彼は満足げに笑う。見返りもないのに溺愛されろとこの人は言う。・・・それだけは少し居心地が悪い。

ほとんどのモノを持ってるこの人に、差し出せるモノが思い付かない自分ができることなんて。

要らなくなったらすぐに消えるぐらいだ。
< 27 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop