鵲(かささぎ)の橋を渡って
過去と現在の狭間で

銘「鵲」

「誰に見られるかわからないものに、勝手な妄想を書き付けるのはやめてください」

「妄想ではなく、夢です。未来日記」

「それを妄想というんです。とにかく、私は先生のお気持ちに応えられませんから。既婚者に言い寄るなんて、どういう神経してるんですか」

伊織は、食べかけの和菓子を美月のデスクの上に起き、そっと彼女のネイビーの長袖ブラウスの袖を引いた。

「でも、その結婚生活が破綻していたとしたら?このブラウスの下にある傷痕やあざを、僕が知らないとでも?」

美月は反射的に伊織の指を振りはらった。

「やめてよ、牛込」

「やっと昔のように呼んでくれましたね、七瀬先輩」

牛込伊織は、まだ包装紙をむいていない美月の和菓子を指さした。

「開けてみて」

美月は黙って和菓子をパッケージから救い出す。出てきたのは、七夕の短冊をかたどった上生菓子だった。

「あのときの、鵲のお菓子……」

「覚えていてくれたんですね。そう、僕が初めてあなたに買ってきたお菓子です。学生時代の七夕に」
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