鵲(かささぎ)の橋を渡って

生まれ変わったなら

突然伊織がぽつりと言った。

「生まれ変わったら、僕と結婚してくれますか」

「来世があるなら、もう結婚はしたくないわ。いやというほど苦労したもの」

「では、1年に一度のデートでは?」

美月は、伊織の可愛さにほほえんだ。

「そうね……一年に一度、ただ何も考えずに星空を眺めて、この「鵲」のお菓子を食べながら笑いあっている、そんなデートならね」

「待つよ」

「本気?」

「これ、僕の短冊。みせてあげる」

伊織は、医局の窓辺に寄り、月光の下に薄い紫色の短冊を透かした。銀に輝くひかりを浴びた短冊に、思わず美月も近寄って手に取る。

「待ち人を永遠に待つことが報われますように」

美月は我慢できなかった。伊織の優しさ、汚れて望まない結婚をして本当の恋を拒み続ける自分の情けなさ……全てがしずくとなり、美月の茶色みを帯びた瞳からぽたりと落ちた。その涙には、月が映って鵲の腹のような霜の色をしていた。

「牛込……もっと早く、運命が変わっていたなら、私……あなたを……」

「変えよう。運命を変えるんだ。僕たちならできる。今ならできる」

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