半人前霊能者シリーズ① 忘れられたメロディ
心霊ファイル:プロローグ~目覚めの刻~
俺の名前は三神優斗(みかみ ゆうと)私立高に通う高校2年生。
クラスの女子からはイケメン三神とモテはやされつつも周りの空気を読み、まぁまぁと嗜めてあげたり。男友達とバカをやりながら、普通の高校生活を送っていた。
昨日までは――
「どうしてこんなことに、なってしまったのか……。すべては血のなせるワザって一体」
鏡に映る自分の顔をよく見てみる。明らかに昨日とは違う眼差しに、ガックリとうなだれるしかない。
俺に変化が現れたのは午前3時過ぎ。まだ日が昇らない夜だか朝だか分からない、微妙な時間帯だった。
紐や鎖でがんじ絡めにされたような金縛りと表現すればいいだろうか。メシの次に寝ることが好きな俺にとっては、安眠を邪魔されるのがすっげ~イヤな事だった。
最近は金縛りで目が覚めることがしばしばあり、不快に思っていた。
しかし成長期ということで骨と筋肉のバランスが上手く取れなくて、一時的に身体がフリーズしてるだけだと自分なりに納得するような判断をし、この日も金縛りが解けるまで、じっと耐え忍んでいた。
しかしながら、一向に解放される気配がない。
動かすことができるのは、何故かまぶたのみ。自分の手先すら動かせない状態は、さすがにキツかった。
(――めんどくせぇ身体だな……)
仰向けのままベッドに張り付けにされた憐れな姿を、ぼんやり想像したときだった。右足の甲を、冷たい手が触ってるのをばっちり感じた。
まぶたをぱちぱちしながら足先に神経を集中させると、今度は左足のふくらはぎを触られた。
布団の中に入ってポカポカと温まっている足なので、触られている手の冷たさがハンパないのが分かる。
(――おいおい、こんな夜中にどこの誰が好き好んで、布団に入ってきてるんだよ……)
どこも動かせないので抵抗することもできずに、されるがままの状態だった。やがて触ってきてる手と一緒に、身体の重みもずしりと伝わってくる。
柔らかくて重たくて、ひんやりとした冷たい身体。まるで氷の塊のようだ。あまりの冷たさに、背筋にぞくぞくっと悪寒が走る。
――夏休みにテレビで特集されていたヤツに、同じようなシチュエーションあったな。じわじわと上ってくる、青白い顔をした……。
ソイツが布団から出てくるであろう瞬間、目を見開いてしっかり確認したのだが。
「ぎゃ~っ!! でっ、出てる出てるってばっ!!!」
目が合ったら金縛りが解けた。解けたのはいいのだけれど、テレビで見るような幽霊と明らかにその姿が違っていた。
青白い顔をした女の幽霊。それだけならまだガマンできる。
しかし俺が見たのは頭から中身が出ていて、ぽたぽたとそれが血と一緒に滴り落ちつつ、身体のあちこちからも鮮血がほとばしっていて、見るに絶えない状態だった。
気絶したい感満載なのに、しっかりと意識だけは妙にハッキリしちゃって、残念ながら逃げられそうにもない。
(私が……見えるの……?)
「見えてない見えてない! 頼むからあっち行って。隣の部屋にもれなく導いてくれる人がいるから、そっちに行ってくれって!」
心の中で適当な念仏を唱えながら必死に壁に向かって指を差し、あっち行けをアピールしたのに。
(私の……話を聞……いて。お願……い)
「やめてくれぇ! 中身の出た顔を、こっちに近づけないでくれ! 俺のHPが減ってしまうだろぅ!」
避けようにも相手は透き通っているので、残念ながら手で押し退けようとしても、どうにもならない。
理不尽なのは透き通っている幽霊が、俺に触れられるということだ。何だか生気を、これでもかとどんどん吸い取られているような気分になってくる。
――この状態でずっといたら、このまま干からびて死んでしまうかもしれない。誰とも付き合うこともなく恋も知らず、このまま朽ち果ててしまうのか……。
「そんなのイヤに決まってんだろっ! 俺の青春を返せって!!」
無駄だと分かっていても、必死に拳で殴りつけてみる。幽霊の重みで動けないので、これ以外の攻撃法が見つからなかった。
じたばたして抵抗していると隣の部屋が大きな音を立てて、扉の開く音が聞こえてきた。
「ちょっと、朝っぱらから何やってんだい? ……おやお前、寝込みを襲われていたの」
鬼婆のような顔をした母親が部屋に入ってくるなり、指を差して面白いと言わんばかりにゲラゲラと笑い出す。
「笑ってる暇があるなら、さっさと何とかしてくれよ。死にそうなんだけど」
「何、贅沢なことを言ってんだい。半裸の女の人に襲われるなんて、なかなかないことじゃないのさ。ついでに、夜の手ほどきでも教えてもらったらどうだい?」
実の息子相手に、なんでこんな信じらんねぇことを言ってられるんだ、この母親……。
「普通の状態でいる半裸のお姉さんなら喜んでお受けしますけど、頭の中身が出ている鮮血混じりの人とは、絶対に落ち着いてナニもできねぇってば」
涙ながらに訴えるとため息をついてから何か呪文みたいな言葉を告げて、母さんの身体に幽霊を引き寄せてくれた。
「優斗、一緒に下に来なさい。話があるから」
血まみれの幽霊を背中に乗せて面倒くさそうな表情を浮かべると、身を翻すように部屋を出て行く。
この後ここから、俺に試練の日々がはじまるとは思いもしなかった。
クラスの女子からはイケメン三神とモテはやされつつも周りの空気を読み、まぁまぁと嗜めてあげたり。男友達とバカをやりながら、普通の高校生活を送っていた。
昨日までは――
「どうしてこんなことに、なってしまったのか……。すべては血のなせるワザって一体」
鏡に映る自分の顔をよく見てみる。明らかに昨日とは違う眼差しに、ガックリとうなだれるしかない。
俺に変化が現れたのは午前3時過ぎ。まだ日が昇らない夜だか朝だか分からない、微妙な時間帯だった。
紐や鎖でがんじ絡めにされたような金縛りと表現すればいいだろうか。メシの次に寝ることが好きな俺にとっては、安眠を邪魔されるのがすっげ~イヤな事だった。
最近は金縛りで目が覚めることがしばしばあり、不快に思っていた。
しかし成長期ということで骨と筋肉のバランスが上手く取れなくて、一時的に身体がフリーズしてるだけだと自分なりに納得するような判断をし、この日も金縛りが解けるまで、じっと耐え忍んでいた。
しかしながら、一向に解放される気配がない。
動かすことができるのは、何故かまぶたのみ。自分の手先すら動かせない状態は、さすがにキツかった。
(――めんどくせぇ身体だな……)
仰向けのままベッドに張り付けにされた憐れな姿を、ぼんやり想像したときだった。右足の甲を、冷たい手が触ってるのをばっちり感じた。
まぶたをぱちぱちしながら足先に神経を集中させると、今度は左足のふくらはぎを触られた。
布団の中に入ってポカポカと温まっている足なので、触られている手の冷たさがハンパないのが分かる。
(――おいおい、こんな夜中にどこの誰が好き好んで、布団に入ってきてるんだよ……)
どこも動かせないので抵抗することもできずに、されるがままの状態だった。やがて触ってきてる手と一緒に、身体の重みもずしりと伝わってくる。
柔らかくて重たくて、ひんやりとした冷たい身体。まるで氷の塊のようだ。あまりの冷たさに、背筋にぞくぞくっと悪寒が走る。
――夏休みにテレビで特集されていたヤツに、同じようなシチュエーションあったな。じわじわと上ってくる、青白い顔をした……。
ソイツが布団から出てくるであろう瞬間、目を見開いてしっかり確認したのだが。
「ぎゃ~っ!! でっ、出てる出てるってばっ!!!」
目が合ったら金縛りが解けた。解けたのはいいのだけれど、テレビで見るような幽霊と明らかにその姿が違っていた。
青白い顔をした女の幽霊。それだけならまだガマンできる。
しかし俺が見たのは頭から中身が出ていて、ぽたぽたとそれが血と一緒に滴り落ちつつ、身体のあちこちからも鮮血がほとばしっていて、見るに絶えない状態だった。
気絶したい感満載なのに、しっかりと意識だけは妙にハッキリしちゃって、残念ながら逃げられそうにもない。
(私が……見えるの……?)
「見えてない見えてない! 頼むからあっち行って。隣の部屋にもれなく導いてくれる人がいるから、そっちに行ってくれって!」
心の中で適当な念仏を唱えながら必死に壁に向かって指を差し、あっち行けをアピールしたのに。
(私の……話を聞……いて。お願……い)
「やめてくれぇ! 中身の出た顔を、こっちに近づけないでくれ! 俺のHPが減ってしまうだろぅ!」
避けようにも相手は透き通っているので、残念ながら手で押し退けようとしても、どうにもならない。
理不尽なのは透き通っている幽霊が、俺に触れられるということだ。何だか生気を、これでもかとどんどん吸い取られているような気分になってくる。
――この状態でずっといたら、このまま干からびて死んでしまうかもしれない。誰とも付き合うこともなく恋も知らず、このまま朽ち果ててしまうのか……。
「そんなのイヤに決まってんだろっ! 俺の青春を返せって!!」
無駄だと分かっていても、必死に拳で殴りつけてみる。幽霊の重みで動けないので、これ以外の攻撃法が見つからなかった。
じたばたして抵抗していると隣の部屋が大きな音を立てて、扉の開く音が聞こえてきた。
「ちょっと、朝っぱらから何やってんだい? ……おやお前、寝込みを襲われていたの」
鬼婆のような顔をした母親が部屋に入ってくるなり、指を差して面白いと言わんばかりにゲラゲラと笑い出す。
「笑ってる暇があるなら、さっさと何とかしてくれよ。死にそうなんだけど」
「何、贅沢なことを言ってんだい。半裸の女の人に襲われるなんて、なかなかないことじゃないのさ。ついでに、夜の手ほどきでも教えてもらったらどうだい?」
実の息子相手に、なんでこんな信じらんねぇことを言ってられるんだ、この母親……。
「普通の状態でいる半裸のお姉さんなら喜んでお受けしますけど、頭の中身が出ている鮮血混じりの人とは、絶対に落ち着いてナニもできねぇってば」
涙ながらに訴えるとため息をついてから何か呪文みたいな言葉を告げて、母さんの身体に幽霊を引き寄せてくれた。
「優斗、一緒に下に来なさい。話があるから」
血まみれの幽霊を背中に乗せて面倒くさそうな表情を浮かべると、身を翻すように部屋を出て行く。
この後ここから、俺に試練の日々がはじまるとは思いもしなかった。