半人前霊能者シリーズ① 忘れられたメロディ
***


「三神、ちょっといいか?」

 次の日の昼休み、弁当を食べ終えて昼寝をしようと机に突っ伏しかけたときだった。クラスメートの岡田と鈴木が目の前に現れ、恐るおそるといった感じで俺を見る。

「何か用?」

「お前ン家、霊障相談とかやってるんだって?」

 その質問に、思わず俯いてしまう。これのせいで自宅にオバケがいると小学生時代に噂され、苛められた経緯があった。

(――だけど隠したって、その内バレるしな……)

「ああ。母親がやってる」

 メガネを押し上げながら思いきって言うと、いきなり肩をバシバシと叩かれた。

「お前から母さんに、頼み事をしてもらえないか?」

 言いながら机の上に、一枚の写真を静かに置いた。

「俺ら写真部で活動してんだけどさ、来月のコンテストに向けて、あちこちで写真を撮りまくってたんだ。そしたらその内の1枚が、ちょっと怪しくてな」

 岡田と顔を見合わせながら丁寧に鈴木が説明をし、それに合わせて写真を指差してくれた。

「夕日をバックに、音楽室にあるピアノを写したんだ。パッと見、いい感じに見えるだろ」

「ああ。夕日の赤い色が音楽室をあったかく包んでいて、ピアノから優しい音楽が聞こえてきそうな感じに撮れてるな」

「サンキュー。いい写真だけにおしいんだよ。隅っこに写ってる、これさえなきゃな」

 その部分を、人差し指でぐるっと囲んだ。

 よく確認してみたら、半透明の腕のようなものがピアノに向かって伸ばされてるのが、バッチリと写っていた。

(メガネをかけていても霊の存在が分かるって、もしかしてすごい写真じゃないのか!?)

「これは……ヤバそうな写真だな」

「お~、祟られそうだろ。だからお前の母さんにお願いしてさ、祓ってもらってくれよ。俺、まだ死にたくない」

 鈴木が自分の体を抱きしめながら、ぶるぶると震えるふりをわざわざする。

「その場に俺もいたからさ、正直怖くってな。同じく祟られたくないから、ヨロシク頼む!」

 岡田は俺に向かって、南無南無と念仏を唱え頼み込んだ。

「分かったよ、俺から頼んでみる。お前らが祟られないように、しっかり除霊してもらうから安心しろ」

 ニッコリ微笑むとふたりに抱きつかれて、口々に感謝を述べられた。

 しかしながらこの写真を母さんに見せても、間違いなく放置されるであろう。何故ならば――。

「これも修行のため、とか言いそうだよな。実際……」

 ふたりが安堵しながら去って行く姿を見ながら、ポツリと呟いてしまった。

 音楽の授業は何度も音楽室でやってるけど、それらしい気配を感じたことはない。ということは放課後に写真撮影したとき、たまたま浮遊霊がふらぁっと現れた可能性がある。

(今日はまだ1体も浄化していない。力は十分に残ってる!)

「クラスメートにもたらされた霊障相談をこの三神優斗様が、ちょちょいのちょいと解決してやろうじゃないか」

 鮮やかに解決した様を思い描き、ニヤけそうになる顔を抑えながら軽い足取りで放課後、誰もいない音楽室に向かった。

「校内の七不思議の中に必ず音楽室が含まれているけど、ウチの学校に関して、それらしいものは聞いたことがなかったな」

 真夜中にピアノの音が聞こえるだの飾ってある肖像画が笑ったり、目が光ったりするなど、噂を数えたらキリがない。そんなモノを全部合わせて計算すると、実際は七不思議を超えていたりする。

 苦笑いを口元に浮かべつつ眉間にシワを寄せながら、ぼんやりとアレコレ考えて音楽室の扉を開け放つ。

 メガネを外して、幽霊がいるかどうかチェックしたのだが――。

「いねぇな、誰も。ちょっとだけ中で待ってみるか」

 撮影時間を考えると、夕焼けで室内が照らされていた。大体午後5時過ぎだろう。

 中に入って扉をしっかりと閉め、もう一度辺りをぐるっと視た。

「結局昼休みは霊のことを考えこんで寝れなかったし、横になりながら待たせてもらおうっと」

 立派なピアノと教壇以外何もないところなので、思いきりどこでも寝っころがることができる。しかも防音設備がしっかりしてるから、イビキをかこうが騒ごうがおかまいなしだ。

 真ん中にどんと横になり、ポケットから写真を取り出して仰ぎ見た。

「願わくば、変な悪霊じゃありませんように。俺の対処ができる範囲で、どうかヨロシクです!」

 無理難題なお願いをしながら写真を胸の上に置いて、両腕を枕にそのまま眠りについた。
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