それから、君にサヨナラを告げるだろう
はじめまして
◯
「では、映画の講評会を始めます。皆さんお手元の記入用紙には五段階評価でつけてください」
夏休み期間を使った撮影がようやく終わり、九月になって講評会がスタートした。
あっという間の撮影期間だった。
私達は結局本物のギャルのキャストをおさえることが出来ず、いつも頼んでいる劇団サークルの女の子に濃いメイクを施して撮影をした。
ストーリーはかなりとんがっている。脚本は、編集者希望のヨージが書き下ろした。
都会から田舎に引っ越してきたギャルが、男尊女卑に塗れた村に革新を起こしていく、という、話だ。正直かなりカット数が少なく、ツギハギだらけの編集で、内容に映像が追いついていない。
私達は手に汗握りながら、静かに上映会を迎えていた。今日の朝まで編集をしていたせいで、メンバー全員が寝不足の状態だ。
他の班はドラマに限らず、ドキュメント形式にしたり、お硬く作成していたので、私達の作品はかなり異色だ。
滑るリスクが高過ぎて笑えてくる、と今朝ヨージが呟いていた。東堂も、俺の編集技術で補える範疇ではないとぼやいたいた。
「やばい、まじで流れちゃう」
麻里茂が隣で不安げにボソッと呟いた数秒後、私達の作品が教室に流れた。
笑って欲しいところで一切笑いが起こらなかったので、私達は終わったと心の中で思った。
改めて客観的に自分たちの作品を観てみると、自己満足の塊のサブカルPVみたいで、胸の中がむず痒くなってしまった。
撮っている時はあんなに面白かったのに、おかしい。
主演のギャルが『つまらないことは悪だ!』と言い切ったシーンで映像は終わった。まばらな拍手が教室内に響き渡り、私は心の底から詩織に役をお願いしなくて良かったと思った。きっとぼこぼこにされていただろう。
「異色の作品でしたね。では次の作品を流します」
今までもっと長い感想を述べてくれた幹事長が、さらっと流したところで、私達のハートは脆く崩れた。
「やったな、これは」
東堂が真顔でそう言うので、私も隣で乾いた笑いを返した。
初めてのドラマ撮影が、こんなに難しいとは思っていなかった。
頭の中で描いているストーリーを癪に収めることの難しさ、伝わりやすいカット、繋がりが自然になる編集……本当に全てが勉強不足だった。
カメラワークにはかなりセンスが必要なのだと実感した。
私達はその後の作品上映に全く身が入らないまま、講評会を終えた。
点数は最も低い結果となったのは言うまでもなかった。
「大衆の映画をもっと観るべきよ。我々は。このままじゃただの雰囲気だけのサブカル集団になってしまう」
麻里茂が真剣な顔で、学食の唐揚げを頬張りながらそう断言した。
私は批判だらけの講評用紙をくしゃくしゃに丸めて鞄の奥底に突っ込んでいた。
ヨージはもくもくとうどんをすすり、東堂は大盛りの唐揚げ定食を食べながらスマホをいじっている。
「なんか、麻里茂が思ってたんと違う……、ということが今回の撮影で百回ほどあった」
「分かる。カメラも想像してる画角に合わせるの超大変だった」
「撮影の段取りも地獄だった。まじで何? 映像撮るの超難しいじゃん」
麻里茂は悔しそうに声を荒げながら、やけ食いするかのようにご飯を口に運んだ。私は自分たちの作品をスマホでもう一度流し見ながら、今回の反省点を思い返していた。
自分で手撮りしたシーンが、かなりブレていて観ていて酔ってしまう。自分の未熟さに溜息をついていると、東堂が溜息つくなと睨んできた。
「他の奴らの教育番組みたいな映像より面白かっただろうが。ていうかあれのどこがアバンギャルドのテーマに沿ってんだよ」
「面白いって良い意味の面白さじゃないじゃん。悪目立ちだったよ今回は」
「冬香の大根演技も味があっただろ」
「やめて! 忘れて。あの地獄のような演技は抹消して」
東堂の煽りに思わず耳を両手で塞いだが、東堂は私の大根演技について構わず批判を続けた。私だって演技なんかしたくなかった。役者が足りていなかったのだから仕方なかったのだ。
東堂と言い争っていると、暫く黙っていたヨージが静かに口を開いた。
「確かに麻里茂の言う通り、映画の勉強不足なのかもしれない。今月は、画角や台詞、話のテンポ等に注目して映画鑑賞する強化月間にしない?」
「確かに、撮る側のことも意識して観るといいかもね」
ヨージの提案に、私も首を大きく縦に振った。バイト代は雀の涙で、かつかつの日々だけれど、外食を控えて映画鑑賞に費やそう。キサラギホールなら年間パスポートを持っているのでかなり安く観られるし。
私達はそれぞれ一ヶ月で十本映画を観て勉強することを誓った。
次の上映会では人気投票のトップスリーに入りたい。そんな思いで私はスケジュール帳を開き、バイトのシフトを増やす予定を立てようとした。