それから、君にサヨナラを告げるだろう
皆、表では分からない何かを抱えて生きていて、自分の心と戦っている。
人と関わることでしか、得られない何かがあると、皆が教えてくれた。
「……大切な子って、冬香のことだったんだな」
東堂の言葉に、ハルは一瞬顔を強張らせてから、静かに頷いた。
そうか、ハルと東堂は高校で面識があったんだ。
ハルがサークルに入ってきたとき、東堂は何も言わなかったから知らなかった。
ハルを知っているからこそ、東堂はあんな風にハルに詰め寄っていたんだ。
「東堂、冬香のことを覚えていないと、嘘ついてごめん……。俺、お前に助けてもらったことあるのにな……」
「理由があったんだろ。すぐには言えない理由が」
東堂の言葉に、ハルは切なげに目を伏せた。
ハルを助けた過去、というのが気になったが、今はそんなことを聞ける空気ではなかった。
東堂は目を逸らさずにハルの目を真っ直ぐ見て言葉を続けた。
「……生きろよ。後悔なく。それだけ約束しろ」
「……そうだな、約束する」
もしかして東堂は、ハルの心臓が弱いことも知っているんだろうか。
そんな空気を漂わせながら、二人は目を通して何か意思を通じ合わせていた。
真っ白な雪たちが、全ての過去を曝け出した私たちの胸の中にも降りてくる。
どんなに近くにいても、そばにいても、大切に想っていても、人は心まで読み取れない。
私たちは、色んな形の想いを抱えて出会った。出会うべくして、一緒に過ごした。
心の内を曝け出したからといって、蟠りが溶けて消えるわけじゃないことなんて、知っている。
ここから先は、自分次第。私は、自分の心と向き合って、少しずつ過去を噛み砕いて生きていく。
守りたいものがあると、人は強くなれるというのは本当かもしれない。
こんな臆病な私なのに、もう何が起きても大丈夫な気がするのはどうして。
「冬香と、皆と一緒にいてぇな……。もっと……」
ぽつりとハルがこぼした言葉は、私たちの心にじんわりと広がっていった。
麻里茂がそんなハルの背中を優しくさすって語りかける。
「ハルが記憶喪失だと嘘をついていた理由を、まだ私は知らないけれど、いつか教えてくれる……?」
友達だから知りたいの、と、麻里茂が震えた声でそう付け足したので、ハルは力強く頷いた。
私とハルの繋がりは、錆びた鎖のように重くて脆い部分ばかりだ。
それでも、一緒にいることを選んだ。一生味方同士でいると決めた。
この覚悟を、皆なら受け止めてくれる気がしたんだ。
「私とハルを、迎えに来てくれて、ありがとう……」
吐いた息が白くなって消えていく。
純粋な気持ちだけで集まった訳じゃない私たちだけど、どうか神様、見守って。
ここからスタートだ。今やっと始まったんだ。そう思って、今日を生きてみてもいいですか。
冷えた指先を温めながら、そんな途方もない願いを、真っ白な空に問いかけていた。
〇
春の人と書いて、春人。
私は、そんな温かいハルの名前が、とても好きだ。
あの合宿から三ヵ月が経ち、冷たい雪が解けて、大学二年生になった私たちに春がやってきた。
合宿で、朝から抜け出した私たちグループは散々サークルメンバーに心配をかけてしまったけれど、私たちにとって忘れられない日になった。
「映像コンクールに向けて、本気で作品づくりがしたい」
相変わらず人でごった返している学食で、真剣な表情で麻里茂がそう言い放った。
私たちメンバーは、そんな麻里茂の言葉をひとまずすべて聞こうと、何も言わずに見守った。
「合宿参加して、色んな刺激貰った気がするの。だからこのメンバーで、何かひとつ形に残したい」
それは私も同じ気持ちだ。今の私たちの信頼関係なら、もっと色濃いものを撮れる気がする。
今しか感じ取れないこの気持ちを、映像作品に昇華したい思いが私にもふつふつと沸き起こっていた。
私は麻里茂の提案に大きく頷いて、言葉を返した。
人と関わることでしか、得られない何かがあると、皆が教えてくれた。
「……大切な子って、冬香のことだったんだな」
東堂の言葉に、ハルは一瞬顔を強張らせてから、静かに頷いた。
そうか、ハルと東堂は高校で面識があったんだ。
ハルがサークルに入ってきたとき、東堂は何も言わなかったから知らなかった。
ハルを知っているからこそ、東堂はあんな風にハルに詰め寄っていたんだ。
「東堂、冬香のことを覚えていないと、嘘ついてごめん……。俺、お前に助けてもらったことあるのにな……」
「理由があったんだろ。すぐには言えない理由が」
東堂の言葉に、ハルは切なげに目を伏せた。
ハルを助けた過去、というのが気になったが、今はそんなことを聞ける空気ではなかった。
東堂は目を逸らさずにハルの目を真っ直ぐ見て言葉を続けた。
「……生きろよ。後悔なく。それだけ約束しろ」
「……そうだな、約束する」
もしかして東堂は、ハルの心臓が弱いことも知っているんだろうか。
そんな空気を漂わせながら、二人は目を通して何か意思を通じ合わせていた。
真っ白な雪たちが、全ての過去を曝け出した私たちの胸の中にも降りてくる。
どんなに近くにいても、そばにいても、大切に想っていても、人は心まで読み取れない。
私たちは、色んな形の想いを抱えて出会った。出会うべくして、一緒に過ごした。
心の内を曝け出したからといって、蟠りが溶けて消えるわけじゃないことなんて、知っている。
ここから先は、自分次第。私は、自分の心と向き合って、少しずつ過去を噛み砕いて生きていく。
守りたいものがあると、人は強くなれるというのは本当かもしれない。
こんな臆病な私なのに、もう何が起きても大丈夫な気がするのはどうして。
「冬香と、皆と一緒にいてぇな……。もっと……」
ぽつりとハルがこぼした言葉は、私たちの心にじんわりと広がっていった。
麻里茂がそんなハルの背中を優しくさすって語りかける。
「ハルが記憶喪失だと嘘をついていた理由を、まだ私は知らないけれど、いつか教えてくれる……?」
友達だから知りたいの、と、麻里茂が震えた声でそう付け足したので、ハルは力強く頷いた。
私とハルの繋がりは、錆びた鎖のように重くて脆い部分ばかりだ。
それでも、一緒にいることを選んだ。一生味方同士でいると決めた。
この覚悟を、皆なら受け止めてくれる気がしたんだ。
「私とハルを、迎えに来てくれて、ありがとう……」
吐いた息が白くなって消えていく。
純粋な気持ちだけで集まった訳じゃない私たちだけど、どうか神様、見守って。
ここからスタートだ。今やっと始まったんだ。そう思って、今日を生きてみてもいいですか。
冷えた指先を温めながら、そんな途方もない願いを、真っ白な空に問いかけていた。
〇
春の人と書いて、春人。
私は、そんな温かいハルの名前が、とても好きだ。
あの合宿から三ヵ月が経ち、冷たい雪が解けて、大学二年生になった私たちに春がやってきた。
合宿で、朝から抜け出した私たちグループは散々サークルメンバーに心配をかけてしまったけれど、私たちにとって忘れられない日になった。
「映像コンクールに向けて、本気で作品づくりがしたい」
相変わらず人でごった返している学食で、真剣な表情で麻里茂がそう言い放った。
私たちメンバーは、そんな麻里茂の言葉をひとまずすべて聞こうと、何も言わずに見守った。
「合宿参加して、色んな刺激貰った気がするの。だからこのメンバーで、何かひとつ形に残したい」
それは私も同じ気持ちだ。今の私たちの信頼関係なら、もっと色濃いものを撮れる気がする。
今しか感じ取れないこの気持ちを、映像作品に昇華したい思いが私にもふつふつと沸き起こっていた。
私は麻里茂の提案に大きく頷いて、言葉を返した。