それから、君にサヨナラを告げるだろう
生まれた時から自分が死ぬ日が分かってしまう世界で出会った二人が、何のために生きていくのかを模索していく話だ。「死ぬまであと何日」と、減っていく時間をカウントダウンするしかない男女二人が、なんてことない毎日を通して本当に大切なことに気づいていく。そして、死ぬ一日前に、主人公はいつも通りに一日を終えて、自分が一番“生きてる”と実感させてくれた彼女の元へ会いに行くところで話は終わる。
 
 想像していたよりもずっと重たい内容に、私は一瞬言葉を失った。
 けれど、これを映して作品にして誰かに届けたいと、本気で思った。
 ハルの伝えたいメッセージが、この作品の中に詰まっている。そのことがひしひしと伝わってきた。
 うん、撮ってみたい。設定はありきたりかもしれないけれど、この作品をちゃんと世に出してみたい。強くそう思ったんだ。

「タイトルは仮決定だけど、君が永遠になる、というタイトルで行きたいと思ってる」
「私、これ撮ってみたい……」
 ハルが説明を始める前に、ぽろっと思わず本音が出てしまった。
 私の言葉を聞いて、麻里茂やムトーも頷いている。皆も同じ気持ちであることが嬉しかった。
 私たちの言葉に、ヨージとハルはほっとしたような顔をして、“よかった”と胸を撫でおろしていた。
 しかし一名だけ、明らかに複雑そうな顔をしている人がいた。……それは東堂だった。

「俺はやだ。撮りたくない」
「言うと思った」
 東堂の言葉に、ハルは瞬時に言葉を返す。私たちは東堂がなぜこんなに反対しているのか分からないまま、ハラハラした気持ちで二人の掛け合いを見るしかなかった。
「撮らないからな、こんな作品」
「撮りたいんだ。そのためには東堂の力が必要なんだよ」
「ふざけんなよ。お前こんなの撮ったらもう……」
 そこまで言いかけて、東堂は言葉を喉に詰まらせた。
 そんな東堂を見ても、ハルは一切動揺せずにじっと目を見つめていた。
 東堂は暫く沈黙していたが、私たちには聞き取れない様な声で、苦しそうに何かを呟いていた。

「いなくなる側はいつも、そう勝手に決めるんだよな……」
 東堂がこの時なんて言っていたのかもし聞き取れていたら、何か状況は変わっていたのかな。
 そんな考えに至ることもできずに、私はどうして東堂がこんなにも撮影を拒否しているのか全く分からずにいる。
 しびれを切らした様子の麻里茂が、東堂の背中を強く叩いた。
「もう、何⁉︎ たまに口開いたかと思えば文句言って。いい作品になりそうじゃん、どう考えても」
「うるせぇな、今ハルと話してんだよ」
「なんなの本当あんた! 冬香と再会してなかったら絶対友達になんてなってないんだからね」
 麻理茂が冷たくなっていた空気を壊してくれたため、一旦、東堂の脚本の否定は流れる空気となった。
 でも、東堂が百パーセントの気持ちで編集することができないのは引っかかる。
 不安そうな顔で東堂を見つめていると、彼は私の視線の気づいたのか、麻里茂に叩かれながら私にこう言い放った。
「冬香、お前この作品撮りたいか、本気で」
「えっ、うん……」
「本気でそう思ってんのか」
 突然の東堂の問いかけに戸惑いながらも、私は真剣な瞳でもう一度深く頷いた。
 そんな私を見て、東堂は何かを決意したのか、深く呼吸をして、今度はハルの方を向いた。
「編集してやるけど、ハル、絶対最後まで参加しろよ。約束だからな」
「分かってる。必ずだ」
 ハルは東堂の言葉に、覚悟のある言葉で返した。
 二人の間に絶妙な空気が立っていたが、でもその空気は冷たく嫌な空気とかではなかった。
 なにか意思の重さを測り合っているような、そんな空気だった。
 東堂は諦めたようにもう一度溜息をついてから、分かったと小さな声で了承した。
 そんな東堂の態度を見て麻里茂とムトーは何様だと怒っていたけれど、ハルはありがとうと感謝していた。
 一体二人の関係はどんな絆で結ばれていいるんだろう。

「……まあとにかく、決まったようで良かった。スケジュール切るから、これから頑張ろう」
 ヨージの優しい声で、ギャーギャー騒いでいた三人も大人しくなった。
 これから、撮影が始まるんだ。
 悔いのない作品にするよう、私も全力で撮影する。良いと思った時も、違うと思った時も、ちゃんと自分の意見を言おう。
 そう心に留めて、私たちの作品づくりが本格的にスタートしたんだ。
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