王子様と野獣
田中さんは、大きなフロアのパーティションで区切られた一角まで私を連れてきた。
「主任、派遣の仲道さん来られました」
「ああ、はい」
カサリと紙の音がして、人が近寄ってくる気配がする。
ずっとうつむいていたけれど、革靴が近づいてきたのを見て、思い切って顔を上げる。
「仲道百花です、よろしくお願いします」
そして、目に飛び込んできた金髪に、一瞬言葉を失くした。
「え……」
背が高くて、仕立ての良さそうなスーツに身を包んだその人は、明るい茶色とも思えるような金髪だった。
目の前に、王子様がいる。
いや、これ本物? 朝方に夢を見たばっかりだから幻じゃない?
私の王子様は、もっと明るい金髪だったような気もするし……。
「あれ……モモちゃんだよね。びっくりした。大きくなったね」
しかし彼は、口元に笑みを浮かべるとあっさりとそう言った。
何度も瞬きをして彼を見直す。周りにも人はいっぱいいるのに、不審そうなまなざしも感じるのに、それよりも彼が目の前にいることが信じられず、ただ呆けてしまう。
え? え? え? 本物?
「あさぎ……くん?」
恐る恐る問いかけると、うん、と頷いてみせる。
「ああやっぱり。モモちゃん……だよね。名前を見たとき、そうかなって思ったんだ。主任の馬場浅黄(ばば あさぎ)です」
「ええ? 嘘。どういうこと? 本物? あのあさぎくん?」