王子様と野獣
「美麗さん……」
私は同情するような顔をしていたんだろう、美麗さんはむっとして私の鼻をツンとつついた。
「そんな顔される覚えはないわよ。私はそれが分かっていてこの会社に入ったんだし、父の力を利用して彼を手に入れたいと思っていた。それがダメだっただけよ。最初にその手段を選んだ時点で、自分の感情を優先する資格はないわ。……それより、あなたが諦めないのなら頼みがあるのよ」
「頼み?」
「後ろ盾として本部長がついているとはいえ、今までよりは主任の立場は悪くなるわ。加えて、今の土地開発は誘致先に苦労していてうまくいっているとは良いがたいの。その点で私は彼をサポートするつもりだったけど、いつまでも出来るかわからないから、私の仕事も少し覚えてほしいのよ」
「え? 美麗さんに異動の話があるんですか?」
「父が次の相手を決めたら、可能性はあるわ。実際は政略結婚でも、そうじゃない風に装いたいのよ。一緒に仕事をしていて心を通わせたっていう、披露宴でよく聞くような事実を作りたいのよあの人は」
「美麗さん」
「主任のときもそう。だから私はこの部署に配属になったの」
会社は能力の向き不向きで、配属を決めるんだと思っていた。裏にそういう思惑が絡むなんて、私の理解の範疇を超えている。