王子様と野獣


「理由が理由だから……軽蔑されても仕方ないかなって思ってた。君から見たらおかしいでしょ?」


女性を抱けないって言ったことか。それは確かに不思議だと思うけれど、だからと言ってあさぎくんを嫌いになるかと言えばNOだ。

私にとっては、好きって自発的な気持ちだもん。なにかしてもらえるから好きになるんじゃない。
そりゃ、好きになっても返してくれることはないんだなぁって思えば悲しいけど、あさぎくん本人が変わるわけじゃないし、嫌いにはなれない。

私はゆっくり首を振って、うまく伝えられるかわからないけど、今の気持ちを言葉にしてみた。


「私は自分の気持ちに嘘はつけません。振られたとしても、今はまだ主任を好きなままです。諦められるまで……いつか振り向いてもらえるように頑張るくらいはいいですよね?」

「モモちゃん……」

「じゃあ、失礼します」


オフィスの廊下で、いつまでもこんな話しているのも落ち着かないから、ぺこりと頭を下げて退散しようとした。
そうしたら、後ろから「聞こえたぞ」という瀬川さんの低い声がした。


「……瀬川」

「振ったって本当かよ。だったらお前、なんでそんなに彼女にかまうんだ」


廊下の空気がざわついた。
通りすがる人が瀬川さんの低い声にみんな振り返っていく。
私も焦って彼らのもとへと走った。


「あの、瀬川さん」


彼は私の両腕を掴んで引っ張った。強い力で、痛いくらいだ。
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