王子様と野獣
「振られたって本当?」
「本当です。あのっ、主任は悪くないので、落ち着いてください。こんなところで騒いだら……」
「だって。振るくらいだったらなんで俺を押しのけてまで、君を送っていったりしたんだよ」
「おいおいー、やーめろって」
軽い調子の声とともに、阿賀野さんがわって入ってくれた。
瀬川さんの腕を掴み、私から引き離してくれる。瀬川さんが顔をしかめたところを見ると、笑っているけど相当の力を込めているのに違いない。
「なーにらしくもなく熱くなってるんだよ」
「放せよ、阿賀野」
「悪目立ちしてるぜ? なんでこんなゴリラ女取り合ってるんだよお前ら」
「ゴリラは余計ですよ」
咄嗟に言い返すと、阿賀野さんはにやりと笑った。
「だってあり得ないだろ、お前がこんなにもてるとか」
「そもそも阿賀野さんのせいですからね! 初日に突拍子もないことしちゃったから、悪目立ちしてるじゃないですか、私」
やがて私と阿賀野さんの言い合いになっていく。
あれれ、なにかがおかしいなと思ったけど、阿賀野さんが目配せしているところを見ると、何か意図がありそう。