王子様と野獣
「うるさいぞ、何やっているんだお前ら」
やがてやって来たのは本部長だ。後ろから美麗さんがついてくるところを見ると、彼女が呼びに行ったらしい。
「何って……」
「子供みたいに騒ぐな。仕事に戻れ。……仲道さんだったか。派遣さんはもう終わりだろう。帰りなさい」
「は、はい」
「それから馬場」
「はい!」
弾かれたようにあさぎくんが背筋を伸ばす。
「この場の責任者はお前だな。ちょっと来い!」
「……はい」
そう言って、踵を返して歩いていく本部長の背中に、あさぎくんがついていく。
阿賀野さんが瀬川さんの右腕を小突いて、「ほら行くぞ」と連れ出す。残された私は美麗さんの腕に縋り付いていた。
「美麗さん。主任、大丈夫でしょうか」
「大丈夫よ。騒いでいただけで何かミスをしたわけでもないわ。城治さんだし、問題ないわよ」
「でも……」
あさぎくんが怒鳴られるかと思うだけで、私は落ち着かないよ。
「あなたは帰りなさいよ。何かあれば教えてあげるから」
「……はい」
後ろ髪を引かれる思いで、会社を出る。だけど、どうしても気が気じゃない私は、会社の入り口が見えるカフェの窓際の席を陣取った。
せめて、あさぎくんが帰る姿を見たい。元気そうならそれでいいもん。