王子様と野獣
就職のときもそうだったけど、どうしてこの人は、さらりと俺の心をえぐってくるようなことばかり言うのだろう。
「いい条件の政略結婚だったろう。それを蹴って美麗を振るくらい好きなら、さっさと自分のものにすればいい」
「……傷つけるのを分かっていてそんなことできません。彼女には俺よりずっと……」
「俺はさー、奥さんの事ずっと高嶺の花だと思っていたわけ」
人の話を聞く気がないのか、俺の話を遮り、本部長は自分の話を挟み込んできた。
「はあ」
「美人だろ? 仕事できるだろ? 後輩の面倒見いいだろ? 超ハイスペック。絶対俺なんか目にもくれないだろって思ってた。……だけどな、一度だけ奇跡が起きたんだ」
「奇跡?」
「まあその詳細はちょっと憚られるわけだが。一度手に入れたら、もう離すことなんてできなかったな。正解だったと思ってるよ。俺みたいなのでも、本気でぶつかっていけば手に入れられるってわかったんだからな」
「本部長」
まるで殴りかかって来るかのようにのばされた手は、俺の胸のあたりでゆっくりになる。そして、心臓のあたりをポンと軽く拳でたたかれた。
「もう一度言う。諦めたやつには絶対手に入らないが、諦めなければ想いは届く。本気で向かっていけばな」
「……でも、俺より彼女を幸せにできる人はきっとたくさんいます」